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my favorite things 331-340

 my favorite things 331(2020年12月27日)から340(2021年2月28日)までの分です。 【最新ページへ戻る】

 

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 331. 1992年の『ハマ野毛』(2020年12月27日)
 332. 1991年の『ファイル・アンダー・ポピュラー』(2020年12月28日)
 333. 2021年の桜島(2021年1月1日)
 334. 1949年の『象ちゃんババアルのおはなし』(2021年1月23日)
 335. 2020年のピーター・ブレグヴァド『Imagine Observe Remember』(2021年2月10日)
 336. 1985年の『ATLAS ANTHOLOGY III』(2021年2月11日)
 337. 1986年の『Picture Story 2』(2021年2月12日)
 338. 2001年のPeter Blegvad『FILLING TOOTH』(2021年2月18日)
 339. 桜島雪景色(2021年2月19日)
 340. 2002年の『The Ganzfeld』(2021年2月28日)
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340. 2002年の『The Ganzfeld』(2021年2月28日)

2002年の『The Ganzfeld』表紙022002年の『The Ganzfeld』表紙01

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌 その5

 

2000年から2007年にかけて、6冊刊行された、コミック、アート、それらに関するテキストのアンソロジーです。
ガンツフェルド実験という、超能力の話で言及される言葉ですが、ドイツ語で「全体野(五感)、全感覚」を表すことばをタイトルにしています。
「Gonesville !」と発音してもらいたいようです。
どんなコミックやアート作品かというと、『The Ganzfeld』で紹介されている日本の作家が、杉浦茂、田名網敬一、キング・テリー(湯村輝彦)、山塚アイ、河井美咲、横山裕一らということで、その傾向を知ることができるかと思います。

ダン・ナダル(Dan Nadel)が編集の中心人物。
のちに、ダン・ナダルの個人出版事業「PictureBox Inc」(2000年~2014年、New York)の刊行物として記録されいますが、『The Ganzfeld 2』の版元は「The Kaput Press」、著作権は「Monday Morning」(Daniel Nadel, Peter Buchanan-Smith)となっています。
印刷は、香港のAsia Pacific Offset。

ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)は、『The Ganzfeld』の「2」「3」「4」「7」に寄稿。(『The Ganzfeld 6』は刊行されていません。)
実の詰まった果実のように充実した素晴らしい作品を提供しています。

写真は、2002年に刊行された『The Ganzfeld 2』の表紙を広げたものです。カヴァーデザインは、Mike Mills。
縦215ミリ×横253ミリの変形版。176ページ。

Peter Blegvad『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)の「Selected Bibliography」には、次のようにあります。

【09】
The Ganzfeld No.2, April 2002
ed. Dan Nadel, Peter Buchanan-Smith
Includes ‘Selected Letters re. Amateur Enterprises’ which features the Grasshoppers (pp.37-38 of the present volume) and other L. O. R. material.

【試訳】2020年版37~38ページ掲載のバッタ3態をふくむ「想像・観察・記憶」図について書かれた「Selected Letters re. Amateur Enterprises, by Peter Blegvad(ピーター・ブレグヴァドによる「アマチュア・エンタープライズ」についての書簡選)」収録。

(【09】の番号は、年代順になっている「Selected Bibliography」の掲載順です。)

『The Ganzfeld 2』には、「Selected Letters re. Amateur Enterprises」のほかに、「Peter Blegvad ?」という自己紹介、『The Book of Leviathan』(2000年、Sort Of Books)未収録の「リヴァイアサン」2作品と、「Leviathan」連載(1991年~1999年)終了後に『Independent On Sunday』に連載された「The Pedestrian」(1999~2000)から15作品が収録されていています。(99~109ページ)

また、前書きのような「Peter Blegvad ?」で、「amateur enterprises」の役目について、「magic is real and reality is magic」であることを明らかにすることであると、自ら説明しています。
「magic」を「魔法」と訳すると、こぼれおちてしまいそうですが、不思議な虚と日常の実が重なっていることを表していると考えると、「虚実皮膜」と案外、近い考えなのかもしれません。

お手本として3つをあげています。

『ウィルソン氏の驚異の陳列室』(1998年、みすず書房、『Mr. Wilson’s Cabinet of Wonder』1996年)で取り上げられた、ロサンゼルスにあるジュラシック・テクノロジー博物館(The Museum of Jurassic Technology in Los Angeles)

アルフレッド・ジャリ(Alfred Jarry)のパタフィジック( ’Pataphysics)

シュールレアリストのマルセル・ジャン(Marcel Jean、1900~1993)が「もの(object)」を定義したことば「物質的な実体をもつ、幻想と抑制、欲望と抵抗の複合体(a complex of fantasy and restraint, of desire and resistance, which possesses a material substance) 」。

おなじみの日常的事物を、見方を変えることで、再びその事物のもつ不思議の力を取り戻すことを、「amateur enterprises」の目標としているようです。

そして、形而上的考察を好むユーモリストというのが自分の姿勢であり、理想はモンテーニュとも書いています。

 

『The Ganzfeld 2』の「Selected Letters re. Amateur Enterprises」のページから

▲『The Ganzfeld 2』の「Selected Letters re. Amateur Enterprises」のページから

 


▲『The Ganzfeld 2』の 「The Pedestrian」のページから
「歩行者(The Pedestrian)」は、日本でいうと赤瀬川原平の路上観察に近い作品のようです。

 

     
『The Ganzfeld』6冊は、手もとにあるので、書影を並べておきます。

まず、ピータ・ブレグヴァドの作品が収録された「3」「4」「7」から。

 

『The Ganzfeld 3』(2003年、Monday Morning)

『The Ganzfeld 3』(2003年、Monday Morning)表紙01『The Ganzfeld 3』(2003年、Monday Morning)表紙02

▲『The Ganzfeld 3』(2003年、Monday Morning)の表紙を広げたもの
編集制作は、Dan NadelとPeter Buchanan-Smith。
表紙はJoseph Scheer「Clepsis persicana」、デザインはPeter Buchanan-Smith。
印刷製本は、香港のAsia Pacific Offset。
縦244ミリ×横203ミリ。208ページ。

 

「CONSTELLATIONS from the MILK MUSEUM - curated by Peter Blegvad」の冒頭ページ

▲「CONSTELLATIONS from the MILK MUSEUM - curated by Peter Blegvad」の冒頭ページ
98~109ページ。
想像のミルク博物館の展示案内。
トリュフォーによるヒッチコックへのインタビュー『映画術』で語られた、映画『汚名』でのケーリー・グラントが持つミルクの入ったコップの白さを強調するためにヒッチコックがとった方法は、ブレグヴァドの発想源になっています。

 

『The Ganzfeld 4  Art History?』(2005年、The Monday Morning Foundatuin、Gingko Press、PictureBox Inc.)

『The Ganzfeld 4 Art History?』(2005年、The Monday Morning Foundatuin、Gingko Press、PictureBox Inc.)表紙01『The Ganzfeld 4 Art History?』(2005年、The Monday Morning Foundatuin、Gingko Press、PictureBox Inc.)表紙02

▲『The Ganzfeld 4 Art History?』(2005年、The Monday Morning Foundatuin、Gingko Press、PictureBox Inc.)の表紙を広げたもの
この号から、Dan Nadelの単独編集。
表紙アートワークは、Julie Doucet。
印刷は香港。
縦245ミリ×横205ミリ。288ページ。


On Numinous Objects and Their Manufacture」

▲Peter Blegvad 「On Numinous Objects and Their Manufacture」 冒頭
6~11ページ。
これは、「第204回 1985~1986年の『Rē Records Quarterly Vol. 1』(2017年5月28日)」で紹介した『Rē Records Quarterly Vol. 1 No. 2』(1985年)に掲載されたものの再録。
印刷物としては、『Rē Records Quarterly』のほうがよいです。

 

杉浦茂(Shigeru Sugiura)「ガンモドキー(GANMODOKI)」

▲杉浦茂(Shigeru Sugiura)「ガンモドキー(GANMODOKI)」
224~247ページに、杉浦茂(Shigeru Sugiura)「ガンモドキー(GANMODOKI)」を掲載、英訳は小野耕世(Kosei Ono)。『The Ganzfeld』は、左開きの本ですが、ここだけ日本流に右開きで、247ページから読むようになっています。

日本語だと縦書き・横書きに融通はききますが、アルファベット言語だと縦書きは通すのは難しいだろうなと思います。

 

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)表紙

▲ 『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)の表紙
表紙に「7」とあります。理由は不明ですが、「6」をとばして刊行された7号。
刊記には「THE GANZFELD 6: I'M DONE」ともあります。
印刷はカナダ。
縦203ミリ×横169ミリ。288ページ。

ピーター・ブレグヴァドは、父で絵本作家のエリック・ブレグヴァド(Erik Blegvad、1923~2014)について「ERIK BLEGVAD, AN APPRECIATION ASSEMBLED AND ANNOTATED BY PETER BLEGVAD FOR THE GANZFELD(ガンツフェルド誌のためにピーター・ブレグヴァドによって構成され、注釈をほどこされたエリック・ブレグヴァド鑑賞)」(120~137ページ)を書いています。

息子が父親について書く。その務めを果たしています。
とても美しいテキストです。

「ERIK BLEGVAD, AN APPRECIATION ASSEMBLED AND ANNOTATED BY PETER BLEGVAD FOR THE GANZFELD」のページから

▲「ERIK BLEGVAD, AN APPRECIATION ASSEMBLED AND ANNOTATED BY PETER BLEGVAD FOR THE GANZFELD」の冒頭ページ

 

「ERIK BLEGVAD, AN APPRECIATION」で、エリック・ブレグヴァドに俳句を合わせたページ

▲「ERIK BLEGVAD, AN APPRECIATION」で、エリック・ブレグヴァドのカレンダーのための絵に、俳句を合わせたページ
小林一茶、ジャック・ケルアック、正岡子規の俳句が、並んで選ばれています。

 

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)は、冊子やDVDなど、おまけの多い号でした。

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)おまけDVD

付録の『PROBLEM SOLVERS』アニメーションDVDは、保存の仕方が悪かったとは思わないのですが、盤の金属面がまだらに腐食して再生不能になっていました。残念。なにか質の悪い材料を使っていたのでしょうか。

CDやDVDなどは、長持ちするメディアでなく、ある日、取りだしてみると、使い物にならない未来が待っているのではないかと憂欝になります。

 

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)おまけ

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)おまけ02

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)おまけ03

『The Ganzfeld 7』(2008年、PictureBox Inc)おまけ04

 

     

ブレグヴァドの作品が掲載されていない、「1」と「5」の書影も並べておきます。

『THE GANZFELD Fall 2000』(2000年、The Kaput Press)

『THE GANZFELD Fall 2000』(2000年、The Kaput Press)表紙

▲『THE GANZFELD Fall 2000』(2000年、The Kaput Press)の表紙を広げたもの
Editors: Timothy Hodler, Dan Nadel, Patrick Smith
Publisher: Dan Nadel
Design: Patrick Smith
縦202ミリ×横145ミリ。152ページ。

創刊号ですが、冒頭に既刊号の感想が書かれた読者の便りがあり、巻末にバックナンバーの紹介があるという、人を食った構成。
Dan Nadelによる、Paul Karasikへの聞き書きは、45ページの充実した内容です。

ポール・オースター(Paul Auster)の小説『シティ・オブ・グラス』(1985年)をコミック化したもの〈1994年、ポール・カラシーク(Paul Karasik)構成、デビッド・マッズケリ(David Mazzucchelli)画〉は、講談社から森田由美子訳(1995年)が出ていました。

 

『The Ganzfeld 5  Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)

『The Ganzfeld 5 Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)表紙01『The Ganzfeld 5 Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)表紙02

▲『The Ganzfeld 5  Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)の表紙を広げたもの
Dan Nadel編集。
表紙アートワークは、Patrick Smith。
印刷は香港。
縦244ミリ×横204ミリ。196ページ。

日本(Japan)とカナダの特集ということで、「Japanada!」という副題。
紹介されている日本の作家は、
 SIGERU SUGIURA(杉浦茂)
 KEIICHI TANAAMI(田名網敬一)
 KING TERRY(キング・テリー、湯村輝彦)
 EYE YAMATSUKA(山塚アイ)
 MISAKI KAWAI(河井美咲)
 YUICHI YOKOYAMA(横山裕一)

KOSEI ONO(小野耕世)が、父親の画家・漫画家、SASEO ONO(小野佐世男、1905~1954)についての文章を書いています。

PictureBoxでは、横山裕一、根本敬、杉浦茂、手塚治虫、林静一の英語版も刊行していました。


     

Dan Nadelが編集したサイケデリック・アートについての本『Electrical Banana』(2011年、Damiani)も手もとにあったので、書影を並べておきます。

『Electrical Banana』(2011年、Damiani)表紙01『Electrical Banana』(2011年、Damiani)表紙02

▲『Electrical Banana』(2011年、Damiani)表紙
Norman Hathaway selects, texts, design
Dan Nadel  selects, texts
出版印刷はイタリアのDamiani、企画編集はPictureBox。
縦260ミリ×横237ミリ。208ページ。

7人のアーティストが取り上げられています。
 Heintz Edelmann
 Martin Sharp
 Dudley Edwards
 Marijke Koger
 Keiichi Tanaami(田名網敬一)
 Mati Klarwein
 Tadanori Yokoo(横尾忠則)

田名網敬一と横尾忠則は、人気があるのだなと感じます。

Dan Nadelは、PictureBoxを閉じたあと、コミックとアートが交わる分野の展覧会企画者として活動しているようです。

     

『Imagine Observe Remember』のための書誌は、次回に続きます。


〉〉〉今日の音楽〈〈〈

山塚アイの名前があったので、ボアダムズを。

Boredoms『恐山のストゥージス狂(Onanie Bomb Meets The Sex Pistols)』01

Boredoms『恐山のストゥージス狂(Onanie Bomb Meets The Sex Pistols)』02

▲Boredoms『恐山のストゥージス狂(Onanie Bomb Meets The Sex Pistols)』(1994年、WEA、Warner Music Japan)
The Boredoms『恐山のストゥージズ狂 / Onanie Bomb Meets The Sex Pistols』(1988年、Selfish Records)に、Boredoms『Anal By Anal』(1986年、Transrecords) を加えて、ワーナーミュージックジャパンからリリースされた再発CD。

ボアダムズが、メジャーレーベルのワーナーから出ていたというのが1990年代です。1990年代的なもの、例えば村崎百郎と地続きで、ノイジイな傷を表面にさらしていたのですが、2000年代に入ると、前景から隠れて見えにくくなっていきます。

 

Boredoms『ポップタタリ(Pop Tatari)』(1992年、WEA、Warner Music Japan) 01

Boredoms『ポップタタリ(Pop Tatari)』(1992年、WEA、Warner Music Japan) 02

▲Boredoms『ポップタタリ(Pop Tatari)』(1992年、WEA、Warner Music Japan)

 

『The Ganzfeld 5 Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)山塚アイのページ冒頭

▲『The Ganzfeld 5  Japanada!』(2007年、Gingko Press、PictureBox)山塚アイのページ冒頭

 

    

2021年2月17日から2021年5月10日まで、かごしま近代文学館で「孤高の詩人 浜田到」と題した企画展が開かれています。

浜田到(1918~1968)に、レコードを題材にした作品がありました。

 夜の音盤一周一周喪ひつひろがる圏(わ)よたましひの影よ

この歌にふさわしい音盤は何だろうと考えます。

マイルス・デイヴィスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」(1957年)だと、あまりにも絵にはまりすぎ、でしょうか。

 

Miles Davis『'Round About Midnight』(1957年、写真は2005年、Columbia/Legacy版再発CD)

▲Miles Davis『'Round About Midnight』(1957年、写真は2005年、Columbia/Legacy版再発CD)
黒いレコード盤があればよかったのですが、手もとにあったのはCD盤だけでした。

 

浜田到については、「第261回 1971年の『浜田遺太郎詩集』(2019年2月26日)」で、少し書いています。

 

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339. 桜島雪景色(2021年2月19日)

桜島雪景色_朝日通

 

歩いていて、朝日通を横切って、ビルの谷間から切り取られるように桜島が見えたとき、何か異なるものが押し迫って来たように感じることがあります。

特に年に数度しかない雪の日は、その印象がより強くなります。

日常のなかに、マグリット的な非日常が急に姿を現す、といったらおおげさでしょうか。

 

桜島雪景色01

朝、ふもとまで雪が降って、雲におおわれた桜島は、「魁偉」の文字がふさわしく、「神気」をおびています。

 

桜島雪景色02

 

椿01

 

桜島雪景色03

 

それでも、日差しは強くて、あっという間に、ふもとまであった雪も、少なくなっていきます。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

霧や霜、樹氷と、寒くて凍えそうなジャケットの石橋英子『carapace』(2011年、felicty)。

石橋英子『carapace』(2011年、felicty)01

石橋英子『carapace』(2011年、felicty)02

石橋英子『carapace』(2011年、felicty)03

テレビの音楽番組で、星野源が出演するとき、そのバックバンドのメンバーとしてお見かけします。
このアルバムを最初に聴いたとき、石橋英子で、ジュディ・シル(Judee Sill)の「The Kiss」を聴いてみたいと思いました。

     

横尾忠則GENKYOまんじゅうをいただきました。

横尾忠則GENKYOまんじゅう01

横尾忠則GENKYOまんじゅう02

食べたら、なにものかが胃の腑であばれそうですが、おいしくいただきました。

 

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338. 2001年のPeter Blegvad『FILLING TOOTH』(2021年2月18日)

 

2001年のPeter Blegvad『FILLING TOOTH』表紙

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌 その4

 

縦147㎜、横104㎜、ステープル綴じ、表紙を含めて16ページの小冊子。
「歯(Tooth)」という言葉から生じた連想画集。
残像の効果を使って「歯」の幻影を生じさせたり、最後のページに現れた点を、痛みをともなった痛点のように感じさせたり、小さいながら、いろんな仕掛けのある、楽しい冊子です。

冊子自体には、何年刊という記述はありませんが、Peter Blegvad『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)の「Selected Bibliography」には、次のように2001年とあります。

【07】
Filling Tooth
16pp, London: Amateur Enterprises, 2001
Like stones, teeth have long been a subject of interest for PB (e. g. pp.162-164 of the present volume). Filling Tooth explores images and associations triggered by ‘tooth’.

【試訳】『Stones In My Passway』で扱った石と同様に、歯はずっとブレグヴァドの関心を引き続けた題材でした(2020年版収録の「見者になる方法(How To Be A Seer)」162~164ページ参照)。小冊子『詰め歯(Filling Tooth)』は、「歯」という言葉が引きがねとなって生じたイメージと連想を探究しています。

(【07】の番号は、年代順になっている「Selected Bibliography」の掲載順です。)

 

2020年版の『Imagine Observe Remember』を、ReR Megacorp で購入したら、この『FILLING TOOTH』がおまけとして同封されていました。
ブレグヴァドのサイン入りです。

15年ぐらい前、かなり探して、Ganzfeldのサイトから入手したものが1冊手もとにあったので、届いたとき、特別なおまけ感はちょっと薄かったです。
なかなか見かけない小冊子ですが、当人だと、あ、まだ残っているからあげるよ、という感じなのでしょうか。

ブレグヴァドには、どのくらい、こうした小冊子(チャップブック)があるのか、例えば『AMATEUR』第2号は現物を見たことがありませんし、全貌を知りたいものです。

 

手もとにある2冊の『FILLING TOOTH』は、紙や印刷は基本的に同じつくりです。
それでも、比べてみると、少し違いがありました。そうなると、なんだかとても得をした気分になります。

その違う部分をならべてみます。

 

『FILLING TOOTH』2~3ページ01

『FILLING TOOTH』2~3ページ02

▲『FILLING TOOTH』2~3ページ
上は、Ganzfeld で入手したもの。下は、ReR Megacorp で入手したもの。
両方とも、ピーター・ブレグヴァドのサインが入っています。
Ganzfeld で入手したものには、「©Amateur Enterprises, London www.amateur.org.uk」のスタンプが押されています。
ReR Megacorp で入手したものには、ブレグヴァドの印である、ミルクの入ったコップの赤印が押されています。

 

『FILLING TOOTH』10~11ページ01

『FILLING TOOTH』10~11ページ02

▲『FILLING TOOTH』10~11ページ
上は、Ganzfeldで入手したもの。下は、ReR Megacorp で入手したもの。
Ganzfeld で入手したものには、「DON'T OPEN(開くな)」の黒紙が貼られ、めくれるようになっています。
ReR Megacorp で入手したものには、「DON'T OPEN(開くな)」の黒紙がはられておらず、「Resist Rhyme(韻の誘惑に耐える)」に対して韻の誘惑に負けて「BOOTH」と言ってしまった図が、隠されずに見えています。

 

     

2020年の「Selected Bibliography」の6番目と8番目にある雑誌は、未見です。

書影はありませんが、その文章を引用しておきます。

【06】
Dream Magazine No.1, 2000
ed. George Parsons, Nevada City, California
Includes interview with PB by Sasa Rakezic (alias Aleksander Zograf). The interview was conducted in Belgrade shortly before war broke out. A book of Zograf’s strips about the war ― Regards from Serbia, a Cartoonist’s Diary of a Crisis in Serbia ― was published to acclaim in 2007, but he’s also a psychonaut who has devoted many years to drawing his distinctive hypnagogic visions.

【試訳】『ドリーム・マガジン』第1号
セルビアの漫画家サシャ・ラカジク(アレクサンダル・ゾグラフ)によるピーター・ブレグヴァドへのインタビューを収録。インタビューは、1999年のコソボ紛争勃発する直前にベオグラードで行われました。戦争についてのゾグラフのコミック本『セルビアからよろしく―セルビア危機の漫画家日記』は、2007年にアメリカで出版され、評価されていますが、ゾクラフはブレグヴァドと同じく独特の睡眠時のビジョンを描くことに長年打ち込んできた精神の航海者でもあります。

【08】
Conduit: Words & Visions for Minds on Fire No.11, Fall 2001
ed. William D. Waltz
includes ‘Memory Failure and Imagination’. This is the original version of the text on pp.140-146 of the present volume. (The opening paragraph and the lion Imagined from the ‘12Ls’ series were online at time of writing here: www.conduit.org/blegved/11)

【試訳】『コンジット(中継地):燃えたつ精神のための言葉とビジョン』第11号
「記憶のしくじりと想像力」を収録。これは、2020年版140~146ページのテキストのオリジナル版です。(冒頭の段落と「12Ls」シリーズから「想像されたライオン」図は、ここに書いている時点で、『コンジット』のWEBサイトで見ることができます。)

 

     

2020年版「Selected Bibliograpy」に含まれていませんが、2000年ごろのブレグヴァド関連図書から、手もとにあるものを並べておきます。

 

『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999

『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999表紙

113~135ページで、ピーター・ブレグヴァドの小特集をしています。

 

『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999に収録されたブレグヴァド作品

▲『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999に収録されたブレグヴァド作品。
William Martin による解説も含む。

 

『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999の見開き

▲『CHICAGO REVIEW』VOLUME 45・NUMBER 3 & 4・1999の見開き
冒頭の絵は、3ということで、「Imagine Observe Remember」に通じています。

 

Ammiel Alcalay『A Masque in the Form of a Cento』(2000年、hole chapbooks)

Ammiel Alcalay『A Masque in the Form of a Cento』(2000年、hole chapbooks)表紙

Cover art by Peter Blegvad
表紙絵が、ピーター・ブレグヴァドによるものです。
縦280㎜×横213㎜と、少し大きいサイズですので、見ばえがします。

 

『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)

『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)表紙

イギリスのCD付き音楽誌『アンノウン・パブリック』14号(2002年)。
特集は「Bloody Amateur(すごいアマチュア)」。
創刊当初は、箱に入ったカード形式で、途中から冊子形式になりました。凝ったつくりの音楽誌でした。

 

『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)目次

▲『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)目次

 

『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)収録Peter Blegvad 「On the word 'amateur'」冒頭

▲『Unknown Public』14(2002年、Unknown Public Ltd)収録Peter Blegvad 「On the word 'amateur'」冒頭

Peter Blegvad は、「On the word 'amateur'(「アマチュア」という言葉について)」というテキストを、17~20ページに寄稿しています。

「amateur」「amateur enterprises」を名乗り、『Amateur』という冊子を出していたピーター・ブレグヴァドが、「アマチュア」についての言葉を集めた、引用の織物のようなテキストです。引用されているのは、次のような人物たちの言葉です。

 ウォルト・ホイットマン(Walt Whitman)
 ポール・ヴァレリー(Paul Valery)
 ルネ・クレール(René Clair)
 レイモン・クノー(R. Queneau)が引用したクロード・ベルナール(Claude Bernard)の言葉
 リチャード・ファインマン(Richard Feynman)
 ヤコブ・ブルクハルト(Jakob Burckhardt)
 C・G・ユング(C. G. Jung)
 クリストファー・ナッシュ(Christopher Nash)
 ダニエル・ブーアスティン(Daniel Boorstin)
 フルードリッヒ・ニーチェ(Friedrich Nietzsche)
 リルケ(Rilke)
 K・C・コール(K. C. Cole)
 フラン・オブライエン(Flann O’Brien)
 ウォーカー・パーシー(Walker Percy)
 ギヨーム・アポリネール(G. Apollinaire)
 マーシャル・マクルーハン(Marshall McLuhan)
 チャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)
 ロジャー・カメネッツ(Roger Kamenetz)

何かの傾向が見える選択でしょうか。
20年前のテキストですが、男性ばかりというか、男子校的な引用です。

素人語源的に言うと、(「a-」=「非~、無~」)+(「mature」=「成熟した、大人の」)=「a-mature」、大人になっていない存在のことで、遊び続ける子どもであり続けることを「男の子」は許されてきたんだと言うと、もっともらしく聞こえますが、スペルからも分かるように、「Amateur」の語源は、ラテン語の「amator」=「lover」=「愛する人・愛好家」で、一方的に愛をそそぐ人、というほうが、言葉のイメージとしては適切のようです。


2020年版の『Imagine Observe Remember』では、エヴァ・T・H・ブラン(Eva T. H. Brann)、サラ・ジェーン・バイレス(Sara Jane Bailes)、スザンヌ・バカン(Suzanne Buchan)、ジェニー・ディスキ(Jenny Diski)、マリオン・ミルナー(Marion Milner、Joanna Field)、 リン・ティルマン(Lynne Tillman)、フランセス・イェイツ(Frances Yates)ら女性からの引用も目立ちますが、どちらかというと、『Imagine Observe Remember』は、男性が愛を語るテキストを読んで育った世代のテキストでもあります。

 

この「On the word 'amateur'(「アマチュア」という言葉について)」最後の節「Restoring strangeness to the same old things(いつもの日常に不思議を取り戻す)」では、「Imagined, Observed, Remembered」にも言及しています。


いつものブレグヴァドとは違い、一歩間違えば「自己啓発」テキストになりそうな調子で、「Become an amateur(アマチュアたれ)」と宣言する文章です。参考までに引用しておきます。

Restoring strangeness to the same old things

Say you’re unemployed, untrained and aimless. You’re not a bad person, but you’re so bored and bottled up, sometimes you feel like unexploded bomb. And in the still watches of the night you feel the want of an endeavour to which you can devote your life, a project that restores strangeness to the same old things.

‘Life, friends, is boring. We must not say so ...
And moreover my mother taught me as a boy (repeatingly)
“Ever to confess you’re bored means you have no Inner Resources.”
I conclude now I have no inner resources because  I am heavy bored’
John Berryman in one of his Dream Songs:

‘Human life has stalled; . . . clogged with a growing surplus of human beings it can neither interest or use.’
H. G. Wells

You don’t want to be one of them. You could always join a cult, of course. they’d tell you what to think. But instead, why not join Paul Klee?

‘Fool yourself and others,’ he encourages, ‘be an artist’. Yes! Set yourself goals you can’t hope to attain, which you can therefore pursue at your own pace, without fear of failure. Cultivate obsession. Imagine, observe and remember.

Remember that ‘Limitation are what you find yourself within.’ (Charles Olson). Forgive yourself. Cultivate your Flaws. Bear witness. Record it all. Never mind if it doesn’t cohere. Shore the fragments against ruin - your own, and the ruin of the things around you. Become an amateur.

From Imagined, Observed, Remembered, an encyclopedia of everything in the universe, depicted thrice, by Peter Blegvad
(see www.amateur.org.uk)

【試訳】

いつもの日常に不思議を取り戻す

あなたは失業していて、技能も身につけておらず、将来の目的もないとしましょう。 あなたは悪い人物ではありませんが、退屈で閉じ込めれているので、自分が不発弾のように感じることもあります。そして、しんとした夜の眠られぬ時間の中で、自分の人生を捧げることができる何かをしたい欲求を感じます。それは、いつもの日常に不思議を取り戻す試みです。

《ねえ友よ、人生はつまらない、私たちはそんなを言ってはいけないって...
子どものころ母さんが教えくれてた。そして(繰り返すように)
「退屈だと告白することは、中身がない人間だってことだよ」教えてくれた。
今、僕はひとつの結論に達している。
僕はひどく退屈しているので、まったく中身のない人間なんだと。》
ジョン・ベリマン『夢の歌』から:

「人間の生活は立ち往生しています。・・・無関心で活用することもできない余剰の人間が増え続け、行き詰まっているのです。」
H.G.ウェルズ

あなたは、その一員になりたくない。もちろん、いつでもカルトに参加することもできます。カルトはあなたに何を考えるべきかを教えてくれるでしょう。しかし代わりに、パウル・クレーと同じことをしてみるのはどうです?

「自分や他人をだましたっていい、芸術家になっちまえ」と彼は励ましています。その通り! とても達成が望めないような高い目標を設定しましょう。そうすれば、失敗を恐れることなく、自分のペースで目標を追い求めることができます。執着を育むこと。想像し、観察し、そして記憶すること(Imagine, observe and remember)。

覚えておいてください。「限界とは、あなたが自分自身に見出すもののことです」(チャールズ・オルソン)。
自分を許すこと。自分の弱点を育てること。目撃者であること。すべてを記録すること。筋が通っていなくてもかまいません。断片を、破滅から ― あなた自身、そしてあなたの周りのものの破滅から守ること。アマチュアになってください。

ピーター・ブレグヴァドによって3度にわたって描かれた、宇宙の万物についての百科事典『Imagined, Observed. Remembered』より。
(www.amateur.org.uk を参照)

 

 アメリカの詩人チャールズ・オルソン(Charles Olson、1910~1970)
 アメリカの詩人ジョン・ベリマン(John Berryman、1914~1972)
 イギリスの作家H・G・ウェルズ(H. G. Wells、1866~1946)
 スイスの画家パウル・クレー(Paul Klee、1879~1940)

の言葉をはさみつつ、どこか香具師のような調子で、「想像し、観察し、記憶すること」が「アマチュア」の技であることを宣言しています。

このテキストは、2020年版には収録されていません。2020年に招喚すべきものではないと省かれたのでしょうが、とても興味深いテキストです。

 

『map』issue #03 summer 2002(www.mapup.net)

『map』issue #03 summer 2002(www.mapup.net)表紙

『map』2002年夏号では、ピーター・ブレグヴァドへのインタビュー「AMATEUR MAN WITH A FULL OF AMOR」が、65~71ページに掲載されています。


『map』issue #03 summer 2002「AMATEUR MAN WITH A FULL OF AMOR」のページから

▲『map』issue #03 summer 2002「AMATEUR MAN WITH A FULL OF AMOR」のページから

インタビュー・文 荒田光一、小田晶房(注釈等)
翻訳 福田教雄
アートワーク ピーター・ブレグヴァド
協力 喜多村純、ロクス・ソルス

『リヴァイアサンの書(The Book of Leviathan)』(2000年、Sort of Books)についてもしっかり紹介していて、この勢いで日本語訳版も出ていればよかったのに、と思うばかりです。

 

Edited by David Hart『Freedom rules: new forms for the making of poems』(2004年、Flarestack)

Edited by David Hart『Freedom rules: new forms for the making of poems』(2004年、Flarestack)表紙

詩の技法についてのテキストを集めた、表紙を含めて48ページの冊子。
Peter Blegvad は、8~9ページに、回文詩についてテキスト「Moepoem」を寄稿しています。

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌は、次回に続きます。


〉〉〉今日の音楽〈〈〈

はにわオールスターズ『はにわ』(1983年、 CBS Sony)収録の「沖のてずるもずる」を初めて聴いたとき、れいちの高音には、テープの早回しかと驚きました。

アレポス(Arepos)の第1作(1989年)01

アレポス(Arepos)の第1作(1989年)02

れいちと清水一登のグループ、アレポス(Arepos)の第1作(1989年、Pin label、VIVID)。
写真は、2015年の再発CD(Super Fuji Discs、VIVID、Disk Union)。
ジャケットの絵は、清水一登。

「AREPOS」というグループ名も、ラテン語の回文魔方陣の一部です。
こちらは音階的回文で、ブレグヴァドが得意とするのは言葉の回文ですが、何か共通するものもありそうです。

 

1990年の清水一登(Shimizu Kazuto)のソロアルバム『yet somehow ...』新装再発盤(2009年、puff up、VIVID)も並べておきます。

清水一登のソロアルバム『yet somehow ...』

ジャケットの絵も、清水一登。
「音・画・文」一致の人なのでしょう。

 

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337. 1986年の『Picture Story 2』(2021年2月12日)1986年の『Picture Story 2』表紙

 

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌 その3

 

ベン・カッチャー(Ben Katcher)編集のコミック誌『PICTURE STORY』第2号の表紙です。
副題は「PHOSPHENES・MEN’S ADVENTURE・TUBERCULOSIS(閃光、男の冒険、結核)」。
表紙絵は、Jerry Moriarty。
表紙にバーコードがありません。自費出版だったのでしょうか。

ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)は、目次のページ(p1)にイラスト「THE NOMAD」、p16~p22に「Imagined, Observed, Remembered」を寄稿しています。


2020年版『Imagine Observe Remember』の「Selected Bibliography」では、次のようになっています。

【03】
Picture Story Number 2
Phosphenes, Men’s Adventure, Tuberculois
ed. Ben Katcher. New York, 1986
includes ‘Imagined, Observed,Remembered’, ‘Notes on Drawing a Liver from Memory’ and reproductions of the ‘12Ls’.

(【03】の番号は、年代順になっている「Selected Bibliography」の掲載順です。)

『PICTURE STORY 2』に収録された「RAG: Imagined, Observed,Remembered」は2020年版の口絵。
「Imagined, Observed,Remembered」は、2020年版の「Imagine, Observe, Remember」
「Notes on Drawing a Liver from Memory」は、2020年版の「Disjecta Membra」の「X. Notes on Drawing a Liver from Memory」。
「12Ls」は、2020年版「‘12’Ls' from Everyman's Encyclopedia」のもとになっています。
「Lower Jaw: Imagined, Observed,Remembered」は、2020年の「How To Be A SEER」に使われています。

詰め込みすぎの実だくさんのレイアウトです。
『ATLAS ANTHOLOGY III』(1985年、ATLAS PRESS)で4つ紹介されていた頭文字「L」ものも12作品、掲載されています。

 

『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)目次と刊記

▲『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)目次と刊記
表2の絵は、Jerry Moriartyの「Jack Survives (Part 1)」
p1中央に、Peter Blegvadの「THE NOMAD」

 

『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)見開き

▲『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)見開き
「Imagined, Observed,Remembered」の冒頭ページ。
下部の「RAG(ぼろきれ:想像して、観察して、記憶して)」は、2020年版の口絵になっています。
1931~1932年版の『Everyman's Encyclopedia(エヴリマン百科事典)』の挿絵をもとにした12の頭文字「L」は、次のもの。」

 Liver 「肝臓」
 Liszt 「作曲家フランツ・リスト(Franz Liszt、1811~1886)」
 Loch Lommond 「ローモンド湖」
 Lightbulb 「電球(エジソンの)」
 Louris 「ロリス(ノロマザル)」
 Lion 「獅子」
 La Fayette, Madame de 「作家ラファイエット夫人(1634~1693)」
 Leeuwenhock 「オランダの科学者レーウェンフック(1632~1723)」
 Lace 「レース」
 Larynx 「咽頭」
 Laburnum  キングサリ
 Lymph gland リンパ節

2020年版では、配列がアルファベット順に変わっています。

言葉だけから想像して(Imagine)描いたものとは、何だろうと考えます。


頭文字「L」の1人、レーウェンフックは顕微鏡を使った微生物研究を始めた人で、その顕微鏡に由来する円形図は、2020年版後半の「Recent Experiments」(p166~189)「Hypnagogic Roundels」(p190~241)の発想源になっています。

 

旧版と引き合わせると、修正にも気づきます。

1985年・1986年「Louris」

▲1985年・1986年「Louris」

2020年「Loris」

▲2020年「Loris」

1986年版では「Louris」だったものが、2020年版では「Loris」に修正されています。

「Louris」は、「Loris」とはまったく別の存在だったかもしれません。

「Imagined, Observed, Remembered」のテキストの一部や「12L」の絵は、amateur.org.uk/ のサイトでも見ることができます。そこでは、「Loris」でなく「Louris」が使われているのですが、4枚目の図として、赤ん坊の絵が追加されています。
その赤ん坊の名前が「Louris」ということも「Imagine」の世界ではありそうです。

【2021年2月17日追記】

「赤ん坊の絵」は、「観察されたロリス」と「記憶されたロリス」の間に描かれ、そのため、記憶のなかのロリスと融合して、新しいイメージを生み出した、というブレグヴァドによる注記が、以前はあったと思います。
その注記は、今は削除されているようです。
「www.amateur.org.uk」サイトは、以前は、flash playerを使った動的な仕掛けのあるサイトでしたが、かなり様変わりしています。

改訂もありますし、「いつまでもあると思うなWEBサイト」で、時々、WEBサイト自体を保存しておいたほうがよさそうです。

『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)掲載の『Naked Shakespeare』の広告

▲『Picture Story 2』(1986年、PICTURE STORY、Ben Katcher)掲載の『The Naked Shakespeare』の広告
ブレグヴァドの手になる、ソロアルバム第1作『The Naked Shakespeare』(1983年、Virgin)の広告があったのも、うれしいおまけでした。

ブレグヴァドの『Naked Shakespeare』については、「第219回 1983年のピーター・ブレグヴァド『The Naked Shakespeare』(2018年1月20日)」でも書いています。

     

続いて、「Selected Bibliography」では、『RēR Records Quarterly Magazine』が紹介されています。

【04】
RēR Records Quarterly Magazine Vol.3, No.1 September 1989
ed. Chris Cutler
Includes ‘Dispatches from Nod’.
In 1979 PB recorded himself talking in his sleep.
Transcripts of several of these ‘hypnologues’ make up the bulk of this nine-page article.
A transcript of the experiment with Dana Johnson (pp.39-43 of the present volume) is also included, but with only one (the final) illustration.

【試訳】1979年にピーター・ブレグヴァドは睡眠中の自分の寝言を記録しました。
これらの「睡眠語」のいくつかの写しが、1989年『RēR Records Quarterly Magazine』Vol.3, No.1の9ページにわたる記事の大部分を占めています。
このテキストの「パート2」にあたる部分が、当時のパートナーであったダナ・ジョンソンによる実験の記録(2020年版の39~43ページ)になります。1989年掲載のときは、「パート2」のイラストは(2020年版の最後の)1つだけでした。

 

2020年版に掲載されたものは、1989年に発表されたもののほんの一部です。ブレグヴァドの、いろんな自動筆記の試みのひとつです。

 

『RēR Records Quarterly Magazine』(Vol.3, No.1 September 1989)表紙

▲『RēR Records Quarterly Magazine』(Vol.3, No.1 September 1989)表紙

 

Peter Blegvad「Dispatches from Nod(うとうとからの至急便)」

▲『RēR Records Quarterly Magazine』(Vol.3, No.1 September 1989)見開き

Peter Blegvad「Dispatches from Nod(うとうとからの至急便)」の冒頭ページ


1985年~1997年に刊行された『RēR Records Quarterly Magazine』については、次の回でも書いています。

第204回 1985~1986年の『Rē Records Quarterly Vol. 1』(2017年5月28日)
第205回 1985年の『Rē Records Quarterly Vol. 1 No. 1』の予約購読者へのおまけ(2017年6月27日)
第250回 1986年の『Rē Records Quarterly Vol. 1 No. 3』予約購入者へのおまけ(2018年12月5日)
第289回 1987~1989年の『Rē Records Quarterly Vol. 2』(2019年11月22日)
第290回 1989~1991年の『RēR RECORDS QUARTERLY Vol. 3』(2019年11月23日)
第291回 1994~1997年の『THE RēR QUARTERLY VOLUME 4』(2019年11月23日)」

ブレグヴァドは、全13号のうち、9号に寄稿しています。
『Imagine Observe Remember』に直接かかわるわけではありませんが、『RēR Records Quarterly Magazine』に掲載されたブレグヴァドの作品を並べておきます。

『THE RÉ RECORDS QUARTERLY May 1st 1985』VOLUME1 no.1
【目次でのタイトル】AMATEUR’S PAMPHLET ON KEW:RHONE & PETER BLEGVAD’S INTERVIEW WITH HIMSELF p18~30
【本文でのタイトル】On Kew. Rhone. (a record); A Few Words By The Editors of Amateur (a pamphlet)
予約購読者へのおまけ「Catalogue of Fifteen Objects & Their Titles」

『THE RÉ RECORDS QUARTERLY SEPTEMBER 1st 1985』VOLUME1 No.2
Peter Blegvad: ON NUMINOUS OBJECTS AND THEIR MANUFACTURE p16~21
図版説明の「KEY」の別刷り1枚
Peter Blegvad: BISCUITS p22~23

『THE RÉ RECORDS QUARTERLY JANUARY 1st 1986』VOLUME1 No.3
Peter Blegvad: SHAKESPEARE TRACES p34~35
アルバム『NAKED SHAKESPEARE』のイラスト
【レコード】THE BIG GUNS「Card to Bernard」(Blegvad) 歌詞とブレグヴァドによるイラスト。
予約購入者への特典の図版「Numinous Objects(精霊が宿る物)」の図録の一部。

『THE RÉ RECORDS QUARTERLY MAY 1st 1986』VOLUME1 No.4
Peter Blegvad: IMPRESSIONS OF AFRICA p39
Peter Blegvad: Arachnida p53

『Rē Records Quarterly Magazine MARCH 1987』VOLUME 2 NUMBER 1
ブレグヴァドの寄稿はなし。

『Rē Records Quarterly Magazine AUTUMN 1987』VOLUME 2 NUMBER 2
Peter Blegvad some lyrics for The Lodge p26~27
Solitary p28~31
Smell of a Friend p32~34
White p35~36
アルバム「ザ・ロッジ」から3作品。活字組みでなくブレグヴァドの手がき。

『Rē Records Quarterly Magazine 1988』VOLUME 2 NUMBER 3
ブレグヴァドの寄稿はなし。

『Rē Records Quarterly Magazine 1989』VOLUME 2 NUMBER 4
Peter Blegvad: Linh-Le p14~15
活字組みでなくブレグヴァドの手がき。

『RēR Records Quarterly Magazine 1989』VOLUME 3 NUMBER 1
Dispatches From Nod p34~41
ピーター・ブレグヴァドの夢・入眠時の独白を記録したもの、詩・対話・引用・絵が交錯する8ページのテキスト。

『RēR Records Quarterly Magazine 1990』VOLUME 3 NUMBER 2
ブレグヴァドの寄稿はなし。

『RēR Records Quarterly Magazine 1991』VOLUME 3 NUMBER 3
ブレグヴァドの寄稿はなし。

『unfiled MUSIC UNDER NEW TECHNOLOGY ReR / RECOMMENDED SOURCEBOOK 0401』(1994年、ReR)
口絵はカラーで、ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)の作品。魚の腹をさばくと宝石が出てくる図で、CDのレーベル面にも使われています。
ほかにも図版で「Ulysse Nardin」「Self-made Men」を掲載。

『unfiled MUSIC UNDER NEW TECHNOLOGY RēR / RECOMMENDED SOURCEBOOK 0402』(1997年、ReR Megacorp)
Peter Blegvadのイラスト作品「Attic」を掲載。

 

     
「Selected Bibiliography」では、1989年から、2000年の『The Book of Leviathan(リヴァイアサンの書)』へ飛びます。

ブレグヴァドの本をまず1冊ということな、間違いなくこの本が「代表作」です。

【05】
The Book of Leviathan(2000)●
160pp, London: Sort Of Books, 2000
Selection from the comic trip which ran from 1991 to 1999 in the Independent on Sunday Reviews.
While none of the selected strips refer explicitly to I. O. R., several hinge upon the disjunct between the observed and the imagined.

【試訳】『Independent on Sunday Reviews』 で1991年から1999年にかけて行われた漫画連載からの抜粋。
『リヴァイアサンの書』に選ばれた作品は、「Imagine Observe Remember」をはっきりと分かるように参照していませんが、作品のいくつかは「観察された」ものと「想像された」ものの齟齬に想を得ています。

 

The Book of Leviathan(2000年、Sort Of Books)表紙

▲Peter Blegvad『The Book of Leviathan』(2000年、Sort Of Books)表紙

 

The Book of Leviathan(2000年、Sort Of Books)見返しのサイン

▲Peter Blegvad『The Book of Leviathan』(2000年、Sort Of Books)見返しにPeter Blegvadのサイン

 

Peter Blegvad

▲Peter Blegvad『The Book of Leviathan』(2000年、Sort Of Books)の一コマ
「OBSERVED」の印が使われています。
服のシワが顔に見えた話の語り手として、ジョン・グリーヴス(John Greaves)が登場。

『The Book of Leviathan』については、「第19回 2000年のピーター・ブレグヴァド『リヴァイアサンの書』(2012年10月29日)」でも、簡単に紹介しています。

 

     

「Imagine Observe Remember」に直接かかわるものでなく、2020年版「Selected Bibliograpy」にも含まれていませんが、1990年代のブレグヴァド関係図書から、手もとにあるものを並べておきます。

 

『eonta』(1991年、Volume 1 No.3)

『eonta』(1991年、Volume 1 No.3) 表紙

誌名の「EONTA」は「Beings(存在するもの)」の意味で、イアニス・クセナキス(Iannis Xenakis)の作品名からとられています。
「ARTS QUARTERLY(芸術季刊誌)」4号までしか把握していません。
金井美恵子にも「エオンタ」という作品がありました。

表紙絵が、Peter Blegvad。
編集者のまえがきHarry Gilonis「Is it numinousness ?」(p3)は、ブレグヴァドの簡単な紹介になっています。

 

『PANTA 11』(1993年、Bompiani)

『PANTA 11』(1993年、Bompiani) 表紙
イタリア・ミラノの雑誌。
特集「夜(La Notte)」
「panta」は「万物」。

口絵は、Peter Blegvad の作品。

口絵は、Peter Blegvad の作品「The 3 Elements(1993)」
「3」という数字も、ブレグヴァドにとって重要な主題のようです。

 

Peter Blegvadのテキスト「Anti-luce Sulla segreta nerezza del latte」

Peter Blegvadのテキスト「Anti-luce Sulla segreta nerezza del latte(反=光 ミルクの秘めたる黒さについて)」(イタリア語訳:Alberto Pezzotta)を収録。

 

「LEVIATHAN」イタリア語訳

「LEVIATHAN」も1話だけイタリア語訳で紹介していました。

『PANTA 14』(1996年、Bompiani)

『PANTA 14』(1996年、Bompiani)表紙

特集「音楽(MUSICA)」
表紙にちらばった名前から予想できるように、充実した内容のようです。
今からイタリア語を勉強するべきか。


『camera』台本のイタリア語訳

作曲 Anthony Moore、作詞 Peter Blegvad のテレビ・オペラ作品『camera』台本のイタリア語訳(Alberto Pezzotta)。
『CAMERA』台本の英語テキストは、見たことがありません。
この元になった英語テキストがほしいです。

 

Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press)

Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press)表紙

Atlas Pressの『THE PRINTED HEAD』叢書の一冊。ブレグヴァドの短編集です。
第296回 1993年~1996年の『THE PRINTED HEAD』第3巻(2019年12月30日)」 でも紹介しています。

 

Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press) 扉とサイン

▲Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press) 扉とサイン

 

Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press)刊記と目次

▲Peter Blegvad『Headcheese』(1994年、Atlas Press)刊記と目次

「Linh-Le」は、『Rē Records Quarterly Magazine 1989』(VOLUME 2 NUMBER 4)に手がき版が収録されていましたが、『Headcheese』に収録された作品が、書き下ろしなのか、雑誌掲載を経たものなのか、知りたいところです。

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌は、次回に続きます。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

キリング・タイム(Killing Time)のアルバム『IRENE』(1988年、EPIC/SONY)

キリング・タイム(Killing Time)のアルバム『IRENE』(1988年、EPIC/SONY)
ジャケットの絵は、マヤ・ウェーバー(Maja Weber)の作。

想像(Imagine)の力が作り出した架空の地域の、その地域独自の楽理が生み出す音楽。

 

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336. 1985年の『ATLAS ANTHOLOGY III』(2021年2月11日)

1985年の『Atlas Anthology III』

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌 その2

 

1983年、「反=伝統(Anti-Tradition)」をかかげて、フランス・ドイツなどの前衛的な作品の英訳や実験的な英語作品のアンソロジー『Atlas Anthology』で、出版を始めたアトラス・プレス(Atlas Press)のアンソロジー第3弾、『Atlas Anthology III』 (1985年、Atlas Press)の表紙です。背は少し焼けて退色しています。

ピーター・ブレグヴァドは、「OBSERVED, IMAGINED, REMEMBERED(観察して、想像して、記憶して)」(p194~p200)を寄稿しています。このタイトルでは、「OBSERVED」がいちばん先に置かれています。

1985年のテキストとイラストは、35年後の、2020年版『Imagine Observe Remember』(Uniformbooks)のもとになっています。

 

2020年版『Imagine Observe Remember』の「Selected Bibliography(精選書誌)」では、『Atlas Anthology III』について、次のように書かれています。

【02】
Atlas Anthology III
ed. Alastair Brotchie and Malcolm Green, London: Atlas Press, 1985
Include ‘Observed, Imagined, Remembered’ an early version of the text with which the present volume begins, accompanied by four of the ’12 Ls’ from Everyman’s Encyclopedia and drawings of teeth Imagined, Remembered and Observed.

【試訳】エブリマン百科事典から「L」ではじまるもの12のものを描いた連作から4作品と、歯の「想像・観察。記憶」図とともに、2020年版冒頭文章の初期バージョン「Observed, Imagined, Remembered」を収録。

(【02】の番号は、年代順になっている「Selected Bibliography」の掲載順です。)

 

『Atlas Anthology III』 (1985年、Atlas Press)目次

▲『ATLAS ANTHOLOGY III』 (1985年、Atlas Press)目次

目次だけで酔えるアンソロジーです。

 

『Atlas Anthology III』 (1985年、Atlas Press)刊記と筆者紹介

▲『ATLAS ANTHOLOGY III』 (1985年、Atlas Press)刊記と筆者紹介

寄稿者紹介では、

PETER BLEGVAD is an author , graphic artist, songwriter and performer, his most recent LP Knights LIKE THIS was released on Virgin Records in June this year.

2枚目のソロアルバム『Knights Like This』(Virgin Records)が、1985年6月にリリースされたことを紹介。

 

『Atlas Anthology III』 (1985年、Atlas Press)のPeter Blegvad「OBSERVED, IMAGINED, REMEMBERED」

▲『ATLAS ANTHOLOGY III』 (1985年、Atlas Press)のPeter Blegvad「OBSERVED, IMAGINED, REMEMBERED」

1931~1932年版の『エヴリマン百科事典(Everyman's Encyclopedia)』の「L」の項にある挿絵を模写するかたちで「OBSERVED」は描かれています。
「LARYNX(喉頭)」「LISZT(リスト)」「LOCH LOMMOND(ローモンド湖)」「LOURIS(ロリス・LORIS)」の4つが選ばれています。

テキストのタイトル「OBSERVED, IMAGINED, REMEMBERED」とは違い、絵は上から「IMAGINED」「OBSERVED」「REMEMBERED」の順に配置されています。

この4作品を含め、2020年版の《‘12’Ls' from Everyman's Encyclopedia(エヴリマン百科から12の「L」)》のもとになっています。


【1985年版】冒頭
I began doing comparative drawings of subjects Imagined, Observed and Remembered ten years ago in New York City, pursuing a line of enquiry which grew out of my first commisions as a commercial illustrator and my struggle to evolve a style suitable for that genre.

【2020年版】冒頭
I began doing comparative drawings of subjects Imagined, Observed and Remembered in 1975 in New York City, pursuing a line of enquiry that grew out of my first commissions as an illustrator and my struggle to evolve a style suitable for that genre.

【試訳】私が1つの主題を、想像されたもの、観察されたもの、記憶されたもので比較するドローイングを始めたのは1975年、ニューヨークでのことです。その一連の探究は、イラストレーターとしての最初の仕事を受けて、そのイラストというジャンルに適したスタイルを磨こうという試行錯誤から生まれました。

1985年版は、「commisions」に「s」が1つ足らず、イラストの仕事を始めたのが「10年前」、2020年版だと「1975年」など、若干の語句の変動はありますが、2020年版も1985年版と同様の文章ではじまっています。

 

     

順番が前後しますが、2020年版『Imagine Observe Remember』(Uniformbooks)「Selected Bibliograpy」の冒頭にあげられているのは、1984年の『Stones in My Passway』 です。次のように書かれています。

【01】
Stones in My Passway
24pp, London: Amateur Enterprises, 1984 (Republished London: Institvtvm Pataphysicvm Londiniense Opuscule 1, 2002)
Besides being “the highest symbol of the Self” (Gaston Bachelard) and “containers of the life-force with all its mystery” (M-L. von Franz) stones (amorphous blobs) are easy to draw. It can be hard to tell if a drawing of a stone is imagined, observed or remembered. Hence their appeal as subjects to illustrators.

【試訳】石は、フランスの哲学者ガストン・バシュラール(Gaston Bachelard、1884~1962)が「自己の最高のシンボル」と語り、スイスの心理学者マリー=ルイーズ・フォン・フランツ(Marie-Louise von Franz、1915~1998)が「生命の神秘の詰まった入れもの」としたことに加えて、石(明確な形のないかたまり)を描くことは容易でもある。石の絵は、それが想像で描かれたか、観察して描かれたか、記憶したものを描いたか、見分けることが難しい。それ故に、イラストレーターにとって魅力のある主題にもなっている。

『STONES IN MY PASSWAY』については、「第248回 1984年のNovember Books『The Christmas Magazine』(2018年11月12日)」でも少し書いていますが、ここでも関連する書影をあげておきます。

 

『Stones in My Passway』(上・1984年版、下・2002年版)表紙

▲『STONES IN MY PASSWAY』(上・1984年版、下・2002年版)表紙

 

『Stones in My Passway』(上・1984年版、下・2002年版)「IMAGINED OBSERVED REMEMBERED」

▲『STONES IN MY PASSWAY』(上・1984年版、下・2002年版)「IMAGINED OBSERVED REMEMBERED」

 

     

『Imagine Observe Remember』に直接関係するわけではありませんが、『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)にも、ピーター・ブレグヴァドは寄稿しています。

手もとに2冊あるので並べてみます。

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)表紙カヴァー(ダストラッパー)01

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)表紙カヴァー(ダストラッパー)02

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)表紙カヴァー(ダストラッパー)2つ

表紙は、ロバート・フラッド(Robert Fludd、1574~1637)の図版をもとにした、ジェーン・コリング(Jane Colling)の作。
スクリーン印刷で、比較すると、少し上部の色味が違います。

 

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)表紙

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)表紙

「@las」のスタンプが押されたものと、押されていないものがあります。

 

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)の最初のページ01

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)の最初のページ02

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)の最初のページ

骸骨図のものと、書評のものがあります。

 

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)刊記と目次

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)刊記と目次

PETER BLEGVAD「THE GYNAECOLOGIST(婦人科医)」(3点のイラストを含む)を収録。
いきなり「CHAPTER XII(第12章)」から始まるお話です。
p51~p55に掲載。

 

そして、目次末尾に「PETER BLEGVAD ― AMATEUR NO.1 . . . . . . inside back cover」とあります。

手もとにある2冊の「ATLAS ANTHOLOGY 2」は古書店で購入したものですが、2冊とも「AMATEUR NO.1 」が付属していなかったので、完本ではありませんでした。

「AMATEUR NO.1 」(1977年)については、「第219回 1983年のピーター・ブレグヴァド『The Naked Shakespeare』(2018年1月20日)」でも少しですが、紹介しています。
手もとにある「AMATEUR NO.1 」は、スラップ・ハッピー(Slapp Happy)のLP『Acnalbasac Noom』(1980年、Recommended Records)に、付録としてついていたものです。

 

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)の「Peter Blegvad」の紹介

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)での「PETER BLEGVAD」の紹介

このとき、ピータ・ブレグヴァドが取り組んでいる作品は、「ミルク(Milk)」についての作品と、「Specious Time(見かけ上の時間)」の現象(「時間」が凍りつくこと)についての作品との言及。

ブレグヴァドの「ミルク(Milk)」についての作品については、後の回で。
ミルクはピーター・ブレグヴァド作品の主題の1つで、ブレグヴァドがいろんな作品でサイン代わりの印として使っているコップの図は、ミルクの入ったコップです。

「時間」についての作品が何なのかは、分かりません。

 

『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)の「Recommended Records」の紹介

▲『ATLAS ANTHOLOGY 2』(1984年、Atlas Press)での「Recommended Records」の紹介

ピーター・ブレグヴァドがイラストを描いたアルフレッド・ジャリの「Other Alceste」のファイン(fine)エディションは、「第288回 1989年のアルフレッド・ジャリ『DAYS AND NIGHTS』(2019年11月1日)」で紹介したものだと思います。
『山の爺(Old Man of the Mountains)』は、どうなったのでしょう?

 

     

2020年版『Imagine Observe Remember』(Uniformbooks)「Selected Bibliograpy」は1984年から始まっていますが、日本の音楽誌『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)に、ピータ・ブレグヴァドの寄稿があります。それも並べておきます。

 

『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)表紙

▲『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)表紙

 

『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)「PICTURE & WORDS BY PETER BLEGVAD」01

『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)「PICTURE & WORDS BY PETER BLEGVAD」02

▲ 『MARQUEE MOON』(Vol.7、1982年1月)「PICTURE & WORDS BY PETER BLEGVAD」

収録されているのは、

「タイトル無し」(肉体としてのクローゼットの絵)
「Ballad of Ed Thurman's Rival」(英文なし、小原聡の訳) 
「WAX」(英文なし、小原聡の訳)
「LAST DAY」(イラスト)
「LAST DAY in ARDEN」(イラスト)

ジョン・グリーヴス(John Greaves)の最初のソロアルバム『Accident』(1982年、EUROPA)に「WAX」(作詞Peter Blegvad、作曲John Greaves)は収録されています。ほかは、別のところで見たことのない作品が並んでいます。

この号には、山崎尚洋「アバンギャルドミュージック界の鬼才 ANTHONY MO(O)RE」という記事も載っていて、「キュー・ローンを作ったブレグヴァドは(彼はマーキームーンの為にわざわざメッセージを送ってくれた、最初の数ページにわたる詩と絵がそれである)現在アメリカに在住していて、ジョン・グリーブスの為に詩を書いたりしているが、今年中にはソロアルバムをリリースする。」と、ブレグヴァドについても言及しています。

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌は、次回に続きます。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

必然的に、というか、レコメンデット・レーベルに遠くない音楽を聴き返しています。

宇都宮泰がたずさわった盤の音は、聴くたびに驚きます。

 

JON&UTSUNOMIÄ「( )」(1998年、HÖREN)01

JON&UTSUNOMIÄ「( )」(1998年、HÖREN)02

▲JON&UTSUNOMIÄ「(  )」(1998年、HÖREN)
ALL WORDS AND MUSIC BY ジョン JON
PRODUCED AND ENGINEERING BY 宇都宮泰 YASUSHI UTSUNOMIÄ

最初聴いたときは、なんじゃらほい、でした。
そのときは、集中力が散漫だったのかもしれません。
別の時間に、聴いてみたら、すっと腑に沁みていきました。
テレビの歌番組で流れる、手堅いポップ・ミュージックとは遠いところにある、夢のなかで声かけられた、とりとめのない言葉が、目覚めたあとも、意味が分からないまま妙に耳に残っているような感じ。
子供の、すばやく興味が移り変わる連想の流れにまぎれこんでしまったようです。
その連想の録音が30分の作品として絶妙な均衡で成り立っています。

すぐれたフィールドレコーディングに近いのかも知れません。

 

須山公美子『夢のはじまり』(1986年、2016年再発、SUPER FUJI DISCS)01

須山公美子『夢のはじまり』(1986年、2016年再発、SUPER FUJI DISCS)02

▲須山公美子『夢のはじまり』(1986年、2016年再発、SUPER FUJI DISCS)
いい音だなあと思ったら、宇都宮泰のクレジットがありました。

digital sound recording mastered by 宇都宮泰

宇都宮泰が録音、ミックスした、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを聴くことのできる世界もありえたのではないか、と思ったりします。

 

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335. 2020年のピーター・ブレグヴァド『Imagine Observe Remember』(2021年2月10日)

2020年のピーター・ブレグヴァド『Imagine Observe Remember』表紙01

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌 その1

 

2020年11月、ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)の新著『Imagine Observe Remember』が、コリン・サケット(Colin Sackett)のユニフォームブックス(Uniformbooks)から刊行されました。

2017年暮れに刊行予定告知

2017年に刊行予定と『UNIFORMMAGAZINE』で告知されてから、待つこと3年。
待望の刊行です。
2000年にピーター・ブレグヴァドの『リヴァイアサンの書(THE BOOK OF LEVIATHAN)』(これはほんとうに素晴らしい本です)が刊行されたときと同じくらい、待ち遠しかった本です。

 

ピーター・ブレグヴァドは、Slapp Happy/Henry Cowの音楽活動から離れた1975年、イラストレーターとしての仕事をはじめています。
そのときから、1つのものごとを描く(drawing)ときに、「Imagine(想像する・思い浮かべる)」「Observe(観察する・よく見る)」「Remember(記憶する・思い出す)」の3つの視点で描く連作を続けていて、その45年にわたる時間がつまっている、250ページの本です。

 

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)の巻末には、「Selected Bibliography(精選書誌)」として、1984年から2020年までのピーター・ブレグヴァドの印刷刊行物24点の情報が掲載されています。
そのうち、手もとにあるのは半分ちょっとですが、この機会に、ピータ・ブレグヴァド関連の書影を、何回かに分けて、備忘録的に並べておきたいと思い、本箱を楽しくひっくり返しています。

 

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)表紙02『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)表紙03

▲『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)表紙
ペーパーバックで、小口折りになっています。広げた写真です。

 

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)刊記と口絵

▲『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)刊記と口絵

当初は「Imagined, Observed, Remembered」と「~ed」が付いた形で、想像・観察・記憶の結果として絵を描くことが主眼だったようですが、本のタイトルに「Imagine Observe Remember」が使われたように、 「想像する・観察する・記憶する」とはどういうことかを考えることに、関心が移っていきます。

ある意味、とても基本的な技術についての本です。
スマホもパソコンも必要なく、紙と筆記用具(鉛筆・ペン)さえあれば十分な技術です。
そして、考えること。

そういう意味では、古びにくい、50年後も100年後も読む人が現れるに違いない本です。

 

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)目次

▲『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)目次

『Imagine Observe Remember』の本文では、ホワイト・クリーム・マットホワイト・グレイの4種類の紙が使われています。
無線綴じでちょっと分かりにくいのですが、折り丁と目次の各章がうまく組み合わされていて、各章をきれいに分けた設計になっています。

目次と折り丁と紙色、モノクロ/4色ページを書き出してみます。

Disjecta Membra(断簡)
 p001~p064 紙01(ホワイト)4色+モノクロ

‘12’Ls' from Everyman's Encyclopedia(エヴリマン百科から12の「L」)
 p065~p096 紙2(クリーム)モノクロ

Imagine, Observe, Remember(想像し、観察し、記憶する)
Memory Theatre(記憶の劇場)
Memory Failure and Imagination(記憶のしくじりと想像)
 p097~p152 紙3(グレイ)モノクロ

How to Be a Seer(いかにして見者になるか)
 p153~p164 紙04(マットホワイト)4色

Recent Experiments(最近の実験)
 p165~p188 紙01(ホワイト)モノクロ

Hypnagogic Roundels(目かくし技法による円形作品)
List of Works(作品一覧)
Selected Bibliograpy(書誌)
Acknowledgements(謝辞)
Index(索引)
 p189~p252 紙01(ホワイト)モノクロ

抜き刷りで個別の小冊子がつくれそうです。

 

『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)表紙

▲『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)表紙

2020年版『Imagine Observe Remember』の「Selected Bibliography」では、

【17】
Imagine, Observe, Remember:
Part 1 of the Psychonaut’s Friend, Handbook for Mental Travelers
82pp, Warwick: University of Warwick, 2009
Based on I. O. R. workshops of this material has been re-presented (with some changes) in the four middle sections of the present volume.

とあります。(【17】は、年代順になっている「Selected Bibliography」の掲載順です。)

ピーター・ブレグヴァドが、イギリスのウォリック大学に招かれ、2008年9月から12月に行ったワークショップの記録です。

この2009年版には、

 In memory of my mother
 Lenore Blegvad
 1926 - 2008

という献辞が冒頭にあります。

ピーター・ブレグヴァドは、『Imagine Observe Remember』(2020年)のなかで、「描くこと」を表すのに「drawing」という言葉をおもに使っていますが、母親のレノア・ブレグヴァド(Lenore Blegvad)の絵については「painting」という言葉を使っていました。

 

父親のエリック・ブレグヴァド(Erik Blegvad、1923~2014)、母親のレノア・ブレグヴァド(Lenore Blegvad)、パートナーのクロエ・フリーマントル(Chloe Fremantle)、娘のケイ・ブレグヴァド(Kaye Blegvad)、いずれも画集や絵本をだしています。

ブレグヴァド一家にとって、絵を描くことは家業みたいなもののようです。

 

『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)扉

▲『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)扉

2009年版には、《Part 1 of the Psychonaut’s Friend, Handbook for Mental Travelers(「魂を旅する者の友」第一部、心の旅人のためのハンドブック)》 という副題があります。
「Part 1」とあるので『the Psychonaut’s Friend(魂を旅する者の友)』には続きの構想もあったようです。

 

『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)刊記と目次

▲『Imagine, Observe, Remember』(2009年、Warwick)刊記と目次

2009年版『Imagine, Observe, Remember』は、すべてモノクロですが、4種類の紙が使われています。
制作は、2020年版同様、コリン・サケットです。

図版やテキストが少し変更されていますが、この本がほぼそのまま、2020年版『Imagine Observe Remember』のp97~p164にあてはまります。

 

     

70年代、80年代に、ものを見る、美術作品を見るということについて、ジョン・バージャー(John Berger、1926~2017)の『WAYS OF SEEING』(1972年)は、とても啓蒙的な役割を果たしたのではないかと思っています。
わたしも影響を受けました。

ブレグヴァドの『Imagine Observe Remember』は、『WAYS OF SEEING』のように多くの読者を得られるかどうかは別にしても、ものごとを描く(drawing)ということについて、『WAYS OF SEEING』と同じくらい、啓蒙的な基本図書になるような気がします。

 

John Berger『WAY OF SEEING』(1972年、Penguin Books)表紙

▲John Berger『WAY OF SEEING』(1972年、Penguin Books)表紙
いつごろの版か不明。バーコードがあるので80年代以降の版だと思います。

ジョンバージャー、伊藤俊治訳『イメージ ― Ways of Seeing 視覚とメディア』(1986年、PARCO出版局)表紙カバー

▲ジョンバージャー、伊藤俊治訳『イメージ ― Ways of Seeing 視覚とメディア』(1986年、PARCO出版局)表紙カバー

帯の背に「やさしい美術 新入門書」とありますが、答えが書かれているタイプの本ではありません。

「見ること」と「見られること」について、「見ること」と「所有すること(possessing)」について、考えるようになる本です。

ピーター・ブレグヴァドの『Imagine Observe Remember』も、描くこと、想像すること、観察すること、記憶することについて、考えるようになる本です。

 

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)「Selected Bibliography」

▲『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)「Selected Bibliography」

『Imagine Observe Remember』(2020年、Uniformbooks)の巻末には、「Selected Bibliography」として、1984年から2020年までのピーター・ブレグヴァドの著作が24点掲載されています。
そのうち、半分ちょっとしか手もとにはありませんが、この機会に、ピータ・ブレグヴァド関連の書影を、これから何回かに分けて、備忘録的に並べておきたいと思います。

 

イギリスのグループXTCについての情報サイト「Chalkhills: The XTC Resource」を管理するJohn Relph氏が、以前、ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)やマーティン・ニューエル(Martin Newell)のディスコグラフィーに併せて、彼らの書誌目録も作成していて、2人とも大好きなので、時々のぞいていたのですが、いつのまにか、ネット上から消えていました。

ネット上のサイトも永続的なものでなく、いつ消えてなくなってもおかしくないものと思ったほうがよさそうです。

 

『Imagine Observe Remember』のための書誌は、次回に続きます。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

ブレグヴァドの「Imagined, Observed, Remembered」の絵が、アルバムジャケットに使われている作品に、

Chris Cutler / Lutz Glandien『Domestic Stories』(1992年、ReR Megacorp)

があります。

Chris Cutler / Lutz Glandien『Domestic Stories』(1992年、ReR Megacorp)01

Chris Cutler / Lutz Glandien『Domestic Stories』(1992年、ReR Megacorp)02

▲Chris Cutler / Lutz Glandien『Domestic Stories』(1992年、ReR Megacorp)
想像して描いた「Heart(心臓)」、観察して描いた「Heart(心臓)」、記憶から描かれた「Heart(心臓)」

ダグマー・クラウゼ(Dagmar Krause)はいつだってすばらしいのですが、1990年代のダクマー・クラウゼの声が堪能できる盤です。

 

ピーター・ブレグヴァドのソロ第2作『Kinghts Like This』(1985年、Virgin)ジャケット

▲ピーター・ブレグヴァドのソロ第2作『Kinghts Like This』(1985年、Virgin)

ブレグヴァドの「Imagined Observed Remembered」の断片を、レコードで初めて見たのは、ピーター・ブレグヴァドのソロ第2作『Kinghts Like This』(1985年、Virgin)だったような気がします。

 

IMAGINED Incisors

内袋の周囲にコラージュされたイラストのなかに「IMAGINED Incisors(想像された 門歯)」があり、これは何だろうと思っていました。
「Incisors」の「OBSERBED」と「REMEMBERD」はまだ見たことがありません。

歯は、ブレグヴァドにとって重要な主題のひとつで、『Filling Tooth(詰め歯)』(2001年、Amateur Enterpises)という小冊子も出しています。

「Amateur Enterpises」は、1970年代から、ブレグヴァドの小冊子の版元名として使われています。

Knights Like This amateur

「amateur」という言葉は、『Kinghts Like This』(1985年、Virgin)内袋の周囲にコラージュされたイラストのなかにもありました。

「Amateur」はピーター・ブレグヴァドの自称で、自らの創作者としての姿勢を表していたのだと思います。

 

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334. 1949年の『象ちゃんババアルのおはなし』(2021年1月23日)

1949年の『象ちゃんババアルのおはなし』表紙

 

フランスの絵本作家ジャン・ド・ブリュノフ(Jean de Brunhoff、1899~1937)の、象のババールを主人公にしたシリーズ第1作『Histoire de BABAR le petit éléphant』。
写真は、いしむらみきこ訳『象ちゃんババアルのおはなし』(世界文学社)で、1949年7月5日発行の本邦初訳版です。

ブリュノフのババールものの翻訳は、1938年から1939年に『コドモノクニ』(東京社)に6回にわたって連載された「ザウノマチ」が最初とされますが、これはシリーズ第3作『王さまババール(Le Roi Babar)』(フランス初版1933年)の翻訳で、第1作の『Histoire de BABAR le petit éléphant』の翻訳は『象ちゃんババアルのおはなし』が最初と思われます。

第194回 1934年のポオル・ジェラルデイ著・西尾幹子訳『お前と私』(2016年12月19日)
第231回 1960年の石邨幹子訳 マリイ・ロオランサン『夜たちの手帖』(2018年4月5日)
第232回 1956年の『POETLORE(ポエトロア)』第8輯(2018年4月30日)
第239回 1960年の石邨幹子訳 マリイ・ロオランサン『夜たちの手帖』特製本(2018年7月13日)

などで紹介した、石邨幹子(西尾幹子、1900~1986)による翻訳です。

少し水濡れがあり、綴じも痛んでいる本だったので、入手できる値段でした。
実は、今まで「ババール」ものには全く縁がなく、この機会に初めて読むことになりました。

戦前よくあった海賊版やリライト版でなく、1931年のフランス初版をもとにした、ていねいな完訳版でした。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)見返し

▲ジャン・ド・ブリュノフ、石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)見返し

ジャン・ド・ブリュノフ作、矢川澄子訳『ぞうのババール』(評論社、初版は1974年)見返し

▲ジャン・ド・ブリュノフ作、矢川澄子訳『ぞうのババール』(評論社、初版は1974年)見返し
写真は1979年の版(鹿児島県立図書館蔵)。

石邨幹子訳版は、フランス初版(1931年)を元にしているので、見返しの地の色は緑色になっています。

比較のため、鹿児島県立図書館から借りた評論社版では、なぜか見返しの地の色が茶色になっています。どういう理由で変更したのでしょうか。

調べてみると、ババールもののフランス初版は、見返しの象のパターンは同じですが、地の色を、緑、青、藍、黄、薄青、赤と変えています。

 

『象ちゃんババアルのおはなし』『ぞうのババール』『THE STORY OF BABAR』各版の大きさ

▲『象ちゃんババアルのおはなし』(世界文学社)『ぞうのババール』(評論社)『THE STORY OF BABAR』(英Methuen社)各版の大きさ

鹿児島県立図書館から1949年版と別の版を借りて、版の大きさを比べてみました。
英語版は1977年のMethuen社版(イギリス版初版は1934年のMethuen社版で、A.A.ミルンの序文が入っています)。初版と同サイズのフランス語版がなかったので、こちらを借りました。
これはフランス初版(1931年)の370×270㎜に近いサイズですが、高さも幅も10㎜ほど小さくなっています。

石邨幹子訳版は、フランス初版(1931年)をもとにしていますが、260×182㎜で、2分の1の大きさに縮小されています。

評論社版は、石邨幹子訳版より少し大きく、2㎜×200㎜。1987年には、フランス初版サイズのものも出ています。

象のように大きな本が、ふさわしい形かと感じます。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)前書きと扉

▲ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)前書きと扉

まえがきに「このたび アメリカのC・I・Eすいせんとしょ として にっぽんで ほんやくが きょかされたことを にっぽんの こどもたちの ために 大いに よろこびたいと おもいます。」とあります。

進駐軍のCIE(民間情報教育局、Civil Information and Educational Section)案件だったため、すんなり翻訳権がとれたのかもしれません。

CIEが日本各地に設立した図書館に架蔵されていたのでしょうか。

1949年版の扉は、フランス初版(1931年)のままで、手書き文字で

 Editions de Jardin des Modes
 Groupe des Publications Condé Nast
 11 rue St Florentin Paris

とあります。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)刊記と冒頭ページ

▲ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)刊記と冒頭ページ

左ページの刊記も1931年のフランス初版のままで

 Copyright by Jardin des Modes 1931
 Droits de traduction et reproduction réservés pour tous pays

とあります。

日本版の本文は、活字で組まれていますが、フランス版のように手書き文字を使うことができたらよかったのに、とおもいます。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)見開き

▲ ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)見開き
オリジナル版同様、赤・黄・緑・グレイ・黒の、青(シアン)抜きの5色版。
多少、色ズレもありますが、それも味になっていて、とても好ましい版です。

1949年版の印刷は、京都の日本寫眞印刷株式会社。現在のNISSHAです。
今なら、この色ズレを刷り直したいのではないでしょうか。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)の色ズレ

▲ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)の色ズレ
左が評論社版(1992年11刷)、右が1949年版。色ズレが目立ちすぎる個所もあります。

評論社版は、1970年代の版と1990年代の版を比べると、色がだいぶ薄くなっています。

石邨幹子訳は「です・ます」の敬体、 矢川澄子訳は常体です。

 

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)最後のページと奥付

ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)奥付

▲ジャン・ド・ブリュノフ 石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』(1949年、世界文学社)最後のページと奥付

版元の世界文学社は、戦後1945年に立ち上げられた京都の版元で、1950年代半ばまで存在していました。
伊吹武彦や金関寿夫が編集にかかわっていて、『世界文学』『劇作』『世界の子供』など雑誌を刊行し、翻訳書を積極的に出していました。

『象ちゃんババアルのおはなし』の奥付で、發行者のなまえが、「紫野方彦」と誤植になっているのはご愛敬。
「柴野」が正しい名前です。

世界文学社の検印紙に押されているのは、「石邨」の印でなく、
「THE JAPAN PUBLISHERS' ASSOCIATION」の丸囲みに、
「B ƒ S」の印。
これは何の略語なのでしょうか?

これは、あるいは「B ſ S」(ロングs)だったり、「B / S」(スラッシュ)だったりするのでしょうか。

「ƒ」の横棒が突き抜けているので「エフ」にしか見えないのですが、「 ſ 」(ロングs)だとすれば、中央の「 ſ 」から読んで「SBS」=世界文学社の略と読むことができます。

ご存じの方があれば、ご教授ください。

 

1950年7月14日『官報』掲載の『象ちゃんババアルのおはなし』記事

▲1950年7月14日『官報』掲載の『象ちゃんババアルのおはなし』記事
国会図書館で『象ちゃんババアルのおはなし』を検索しましたら、『官報』に、上のような記述がありました。

『象ちゃんババアルのおはなし』の著作権が、石邨幹子から世界文学社(代表者 柴野方彦)そしてリプレリー・アシェット書店に譲られたという著作権譲渡登録の文部省公告です。
このことが、『象ちゃんババアルのおはなし』の奥付検印が「石邨」や「柴野」でなく「B ƒ S」だったことと関わりがあったのかもしれません。

 

占領下の1949年、石邨幹子訳『象ちゃんババアルのおはなし』は、この本を喜ぶことのできる子供のもとに届いたのでしょうか。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

『小象ババールの物語』(L'histoire de Babar, le petit éléphant) は、フランスの作曲家フランシス・プーランク(Francis Poulenc、1899~1963)が音楽物語にしています。

その石邨幹子訳版を朗読して演奏されるものを、聴いてみたいものです。
ブリュノフが1899年生まれ、プーランクが1899年生まれ、石邨幹子が1900年生まれなので、同世代ならではの同時代感覚が出た翻訳という意味でも貴重だと思います。

 

プーランクというと、フランス出身・イギリス在住のミュージシャン、ルイ・フィリップ(Louis Philippe)の美しいアルバム『ヌッシェ(NUSCH)』が思い浮かびます。

Louis Philippe Et Danny Manners『Nusch - musiques de Francis Poulenc』 01

Louis Philippe Et Danny Manners『Nusch - musiques de Francis Poulenc』 02Louis Philippe Et Danny Manners『Nusch - musiques de Francis Poulenc』 03Louis Philippe Et Danny Manners『Nusch - musiques de Francis Poulenc』 04

Louis Philippe Et Danny Manners『Nusch - musiques de Francis Poulenc』
1998年
ルイ・フィリップ et ダニー・マナーズ『ヌッシェ ~フランシス・プーランクの音楽』(1998年、L'appareil-PHOTO、TRICATEL disques)
日本語訳 show watanabe

 

1998年の『Nusch』と1999年の『Azure』で、すっかりルイ・フィリップに魅せられて、新譜が出たら真っ先に聴きたいと思う存在の1人になりました。

 

この機会に、1998年のアルバム『ヌッシェ(NUSCH)』以降の、ルイ・フィリップのアルバムを並べてみます。

Louis Philippe 『Azure』

Louis Philippe 『Azure』
ルイ・フィリップ『アズーレ』(1999年、トラットリア、ポリスター)

 

Louis Philippe & Danny Manners 『Jonathan Coe 9th & 13th』01

Louis Philippe & Danny Manners 『Jonathan Coe 9th & 13th』02

Louis Philippe & Danny Manners 『Jonathan Coe 9th & 13th』03

Louis Philippe & Danny Manners 『Jonathan Coe 9th & 13th』04

Louis Philippe & Danny Manners 『Jonathan Coe 9th & 13th』
ルイ・フィリップ et ダニー・マナーズ『ジョナサン・コー 9th & 13th』
(2002年、L'appareil-PHOTO、TRICATEL disques)
日本盤のタイトルは上のようになっていますけれど、
Jonathan Coe with Louis Philippe & Danny Manners『9th & 13th』
のほうがよいかと。

このCDの成り立ちについてのジョナサン・コーのテキスト「9th & 13thのようなレコードは他に類を見ないと言っても言い過ぎではないだろう(I think it’s probably true to say that there is no other record quite like 9th & 13th)」を収録(日本語訳 松尾憲治)。

ジョナサン・コーの小説『What a Curve Up』『The Dwarves of Death』『The House of Sleep』『The Rotters’ Club』からの抜粋朗読。
ただし、このCDで朗読されている小説のテキストや、その翻訳はついていません。つけてほしかったです。

ジョナサン・コー『ロッターズ・クラブ』がテレビドラマ化されたとき、ルイ・フィリップの音楽を使う手はなかったのか、と思ったものです。

 

Louis Philippe『My Favourite Part Of You』01

Louis Philippe『My Favourite Part Of You』 02

Louis Philippe『My Favourite Part Of You』
ルイ・フィリップ『マイ・フェイヴァリット・パート・オブ・ユー』
(2002年、フォーチュネイト・レコーズ、XIII BIS RECORDS)
日本語盤解説・サエキけんぞう

輸入盤仕様とはいえ、新譜として日本盤がリリースされたのは、このアルバムまででした。

 

以降の新作アルバムは、このころの流れだったのですが、ミュージシャン直販の形で、ルイ・フィリップのWEBサイトで売られるようになります。
そのため、ふつうのCDショップに出回らなくなります。

 

Louis Philippe『The Wonder Of It All』 01

Louis Philippe『The Wonder Of It All』 02

Louis Philippe『The Wonder Of It All』
(2004年、WONDER)
ルイ・フィリップのサイト「SUNSHINE The Louis Philippe Web Site」で購入。
WEBサイト名の「SUNSHINE」は、ルイ・フィリップの1994年作『SUNSHINE』から。自信作だったのでしょう。

『The Wonder Of It All』 も、素晴らしいアルバムです。

余計なお世話ですが。アルバム・ジャケットの写真のトリミングのしかたは、薄くなった髪の毛の存在を逆に強調しているようにも見えてしまいます。

 

Louis Philippe『Live』 01

Louis Philippe『Live』 02

Louis Philippe『Live』
(2007年、WONDER)
2005年5月18日、ブレーメン
2005年4月22日&23日、2001年1月13日、ロンドン

 

Stuart Moxham With Louis Philippe『The Huddle House』 01

Stuart Moxham With Louis Philippe『The Huddle House』 02

Stuart Moxham With Louis Philippe『The Huddle House』
(2007年、WONDER)
ヤング・マーブル・ジャイアンツ、ジストのスチュアート・モクサムとの共作。

 

Louis Philippe『An Unknown Spring』 01

Louis Philippe『An Unknown Spring』02

Louis Philippe『An Unknown Spring』
(2007年、WONDER)

このソロアルバムのあと、2010年の『オーシャンタンゴ』はありましたが、アルバムをリリースし続けるミュージシャン活動よりも、スポーツ・ジャーナリスト、フィリップ・オークレール(Philippe Auclair)としての活動に重きをおくようになります。

音楽の場所から離れてしまい、ルイ・フィリップの音楽を好きなものにとっては、空白の10年になります。

もともとアリーナタイプでなく、親密な空間の音楽でしたが、アルバムごとに、ポップ・ミュージックの「粋(crème de la crème)」が差し出されてきたのに、聴いてほしい人たちのもとに届いていない、手応えのあるものを作っても届かない、というもどかしさがあったのでしょうか。

 

『THE OCEAN TANGO』(2010年、WONDER)01

『THE OCEAN TANGO』(2010年、WONDER)02

『THE OCEAN TANGO』(2010年、WONDER)
All songs performed by Louis Philippe and Testbild
ハイラマズのSean O’Haganの名も。

 

そして、コロナの2020年4月、BANDCAMPに自分のページを開いて、久し振りに、アルバムを次々発表しはじめます。
領土は小さいのかも知れませんが、ポップ・ミュージックの王に違いない、ルイ・フィリップの帰還です。

 

Louis Philippe『Unheard (Rarities, 1991​-​2009)』
(2020年)
CDやレコードのリリース無しの、デジタル・アルバムです。
BANDCAMPのLouis Philippeのページにあります。

「Unheard」というタイトルは、とても自虐的です。

 

Stuart Moxham And Louis Philippe『The Devil Laughs』 01

Stuart Moxham And Louis Philippe『The Devil Laughs』 02

Stuart Moxham And Louis Philippe『The Devil Laughs』
(2020年、tiny GLOBAL productions)

 

Louis Philippe & The Night Mail『Thunderclouds』01

Louis Philippe & The Night Mail『Thunderclouds』02

Louis Philippe & The Night Mail『Thunderclouds』
(2020年、Tapete Records)

Tapete Recordsは、2016年にSlapp Happyの再発をしたドイツのレーベルです。

 

聴き返してみて、改めてポップ・ミュージックの「粋(crème de la crème)」と思いました。


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333. 2021年の桜島(2021年1月1日)

2021年元旦の桜島

 

2021年元旦。
夜明けの桜島

 

2020年12月31日、午後の桜島

2020年12月31日、午後の桜島。
空気は冷たいのだけれど、青さはまぶしい。

 

年を越して、夜明けの桜島。

2021年元旦、夜明けの桜島

2021年元旦、夜明けの桜島

2021年元旦、夜明けの桜島

2021年元旦、夜明けの桜島

光が波をつたって、まっすぐ伸びてきます。
2021年がはじまりました。

 

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332. 1991年の『ファイル・アンダー・ポピュラー』(2020年12月28日)

1991年の『ファイル・アンダー・ポピュラー』表紙

 

ヘンリー・カウ(Henry Cow)のドラマー、クリス・カトラーの著書『File Under Popular』1991年第2版です。

『The Henry Cow Book』(1981年、Tim Hodgkinsonとの共著)や『THE TOP OF NOTHING』(1985年、November Books)のような小冊子もありますが、クリス・カトラーのまとまった著書としては最初のものです。1985年初版。

手もとにある本は、ネット古書店で購入したものですが、ドイツの作曲家ハンス・アイスラー(Hanns Eisler、1898~1962)の研究で知られる、音楽学者のギュンター・マイヤー(Günter Mayer、1930~2010)の旧蔵書でした。

 

『File Under Popular』見返し

見返しに「from Chris Cutler」のサインと、「thanks!」のことばがあるので、ギュンター・マイヤーが「ReR Megacorp」で購入したもののようです。
サイン入りのハードカヴァー版は50部限定だったようですが、この本はナンバリングされていません。

 

『File Under Popular』第2版の刊記と扉

▲『File Under Popular』第2版の刊記と扉

 

IASPMプログラム

この本には、1983年9月19日~24日に、イタリアのレッジョ・エミリア(Reggio Emilla)で開催されたIASPM(International Association for the Study of Popular Music、国際ポピュラー音楽研究学会)の第2回国際学会のプログラムもはさまれていました。

このときのテーマは「What Is Popular Music ?」。

この国際学会に、クリス・カトラーもギュンター・マイヤー(このときは東ベルリンのフンボルト大学)も参加しているので、二人はこのとき知り合っていたのかもしれません。

『ファイル・アンダー・ポピュラー』収録の最初の論文「ポピュラー音楽とは何か?(What Is Popular Music ?)」は、 このイタリアの学会で1983年9月22日に発表された「Popular and Art Music as Commodtiy(商品としての音楽)」がもとになっています。

     

『NOT AS WE CHOOSE: Music, Memory and Technology』表紙

今年、『ファイル・アンダー・ポピュラー』に続く、クリス・カトラーの音楽評論集『NOT AS WE CHOOSE: Music, Memory and Technology(わたしたちが選ぶのではなく:音楽・記憶・テクノロジー)』(2020年、ReR、November Books)が刊行されました。

 

『NOT AS WE CHOOSE: Music, Memory and Technology』のBlegvad

扉などのイラストは、ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)です。

『NOT AS WE CHOOSE: Music, Memory and Technology』に収録された「THOUGHTS ON MUSIC AND THE AVANT GARDE(音楽と前衛についての考察)」は、ギュンター・マイヤーの75歳記念論文集『Musik-Avantgarde(前衛的な音楽)』(2006年、Verlag der Carl von Ossietzky Universitat Oldenburg)で発表されたものでした。

このギュンター・マイヤーの75歳記念論文集は、ネット上で探すと、PDFをダウンロードできます。

     ◆

『NOT AS WE CHOOSE』は、ReR Megacorpのネット通販で購入したので、クリス・カトラーのサイン(筆ペンのようです)が入った、8ページの小冊子(150部限定)おまけがついていました。

「221b Baker Street」に在住の「Dr. John Rosenberg MD, MRCP, NA」への手紙という設定の「THE ROSENBERG CODE」というテキスト。

THE ROSENBERG CODE

何かの間違いで、シャーロキアンのコレクターズ・アイテムになるかもしれません。

 

    

『ファイル・アンダー・ポピュラー』は、1991年改訂版をもとに、邦訳も出ています。

クリス・カトラー著 小林善美訳『ファイル・アンダー・ポピュラー ポピュラー音楽を巡る文化研究』

▲クリス・カトラー著 小林善美訳『ファイル・アンダー・ポピュラー ポピュラー音楽を巡る文化研究』(1996年10月30日発行、水声社)

大里俊晴の「解説」では、「八五年に初版が、九一年に改訂版が出た『ファイル・アンダー・ポピュラー』の全訳に数編の論文を加えたものである」とあり、1996年日本版には、「ブランダーフォニックス」「スキル/新しい音楽テクノロジーへの否定論」「提起」などが追加されていますが、「英国の進歩的(プログレッシブ)音楽」(Progressive Music In The UK)を補足する4ページの「Annotated Discography(注釈つきディスコグラフィー)」は 省かれています。
全訳というわけではないようです。

「Annotated Discography」

その「Annotated Discography」は、簡単なものですが、クリス・カトラーによるディスクガイドなので、読者にとってもおいしい、とても役立つ個所なのに、どうして省いたのか、不思議です。

『File Under Popular』1991年第2版では、扉などにDirk Vallonsのイラストが使われているのですが、「Annotated Discography」に伴うイラストも日本版では省かれています。
November Booksのスクリーン印刷をしていたThird Step Printworksの場面でしょうか。この図版と表紙の図版が、日本版にありません。

 

クリス・カトラーの「Annotated Discography」で、日本のレコードから選ばれているものも、1枚だけありました。

はにわちゃん『かなしばり』(1984年、CBS/SONY)でした。

『ファイル・アンダー・ポピュラー』は、邦訳が出たとき読んだのですが、生真面目すぎる先輩の本という印象が強く、その後は、敬して遠ざけていました。
はにわちゃん『かなしばり』のことがきちんと邦訳されていれば、生真面目な先輩の持つユーモア感覚を理解できたのかもしれません。

クリス・カトラーの演奏を1998年6月に実際に見てから、怖い先輩という印象は変わりました。

そういえば、10年ぐらい前だったか、クリス・カトラー選曲のポッドキャストがあって聴いてみたら、最初にかかったのが、柴崎ゆかりが歌う、はにわちゃん「かなしばり」でした。
よっぽど好きなのだなと思いました。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

はにわちゃんやはにわオールスターズにも関わりの深い、板倉文&小川美潮のドーナツ盤「Stardust / You Need Me」(2020年、galabox)が出ていました。

板倉文&小川美潮「Stardust / You Need Me」ジャケット

「Stardust / You Need Me」SideA

「Stardust / You Need Me」SideB

 

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331. 1992年の『ハマ野毛』(2020年12月27日)

 

秋朱之介(西谷操、1903~1997)の娘さん、大久保文香さんより、本をいただきました。

大久保さんが、平岡正明(1941~2009)・渡辺光次(元『浜ッ子』編集長)と3人で編集していた、「野毛発!!B級タウン誌の真実」と冠した『ハマ野毛』の揃いです。
平岡正明によれば、《編集員渡辺光次、事務員大久保文香、俺の三人のチームは「オール横浜リズム・セクション」だった》そうです。地元へ深い愛がこめられた雑誌です。

「街」には、その街を読みとく鍵をいくつも提示してくれる存在、例えば木村荘八(1893年~1958)のような存在がいる・いないの差は大きいのではないか、と思っているのですが、雑誌にもそういうものがあって、『ハマ野毛』は、まさにそうした雑誌でした。
街のいくつもの面、レイヤーを見せてくれます。

1992年~1994年に6冊だけ出たタウン誌ですが、誌面は濃密です。こういうタウン誌が出せた街の地力を感じます。

 

『ハマ野毛』全6号の表紙と目次を並べてみます。

 

『ハマ野毛』第1号・創刊号(1992年3月10日発行) 

B6判(128×182㎜)、216ページ、定価300円
編集・発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会

『ハマ野毛』第1号・創刊号表紙

『ハマ野毛』第1号・創刊号目次

 

大久保さんからいただいた『ハマ野毛』創刊号には、執筆者の中谷豊、平岡正明、田村行雄、森直実、平木茂、大久保凡、伊達政保、向井徹、石川英輔、見角貞利、大内順といった方々が、自分のページにサインをしていて、創刊の賑賑しい気分が伝わる貴重な本でした。

 

『ハマ野毛』第1号・創刊号中谷豊 『ハマ野毛』第1号・創刊号平岡正明

『ハマ野毛』第1号・創刊号田村行雄   『ハマ野毛』第1号・創刊号森直実

『ハマ野毛』第1号・創刊号平木茂『ハマ野毛』第1号・創刊号大久保凡

『ハマ野毛』第1号・創刊号伊達政保  『ハマ野毛』第1号・創刊号向井徹

『ハマ野毛』第1号・創刊号石川英輔   『ハマ野毛』第1号・創刊号見角貞利

『ハマ野毛』第1号・創刊号大内順

 

『ハマ野毛』第2号(1992年6月30日発行) 

240ページ、定価400円(ぎょうざ一皿分)
編集人/平岡正明
発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会
表紙イラスト 森直実+デザイン・ダディ

『ハマ野毛』第2号

表紙が 色ズレしているように見えるのは、カストリ雑誌的な効果をねらった意図的なもの。
表4の「キリンビールは、野毛の大衆文化を応援します。」という大手ビール会社の広告は、地区担当の営業の方と野毛の飲食店を巡り、他社から切り替えの手伝いをする、という条件でとれたそうです。

『ハマ野毛』第2号目次


『ハマ野毛』第3号(1992年9月30日発行) 

216ページ、定価400円(やきとり一皿分)
編集人/平岡正明
発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会
表紙 「野毛大道芸」森直実

『ハマ野毛』第3号表紙

『ハマ野毛』第3号目次


『ハマ野毛』第4号(1993年2月28日発行) 

272ページ、定価400円(チューハイ一杯分)
編集人/平岡正明
発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会
表紙絵 森直実

『ハマ野毛』第4号表紙

『ハマ野毛』第4号表紙


『ハマ野毛』第5号(1993年9月10日発行) 

152ページ、定価400円(すうどん一杯分)
編集人/平岡正明
発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会
表紙絵 森直実

『ハマ野毛』第5号表紙

『ハマ野毛』第5号目次


『ハマ野毛』第6号(1994年3月31日発行)

176ページ、定価400円(お茶漬一杯分)
編集人/平岡正明
発行人/平木茂
編集・発行/野毛地区街づくり会内タウン誌編集委員会
表紙絵 森直実

『ハマ野毛』第6号表紙

『ハマ野毛』第6号目次

 

『ハマ野毛』休刊の翌年、『ハマ野毛』に掲載された文章でアンソロジーも編まれています。

 

ヨコハマB級譚 『ハマ野毛』アンソロジー(1995年2月4日第1刷発行)

320ページ、四六判(127×188㎜)
編集 平岡正明
装幀 森直実
企画 野毛地区街づくり会
発行所 ビレッジセンター

ヨコハマB級譚 『ハマ野毛』アンソロジー表紙

ヨコハマB級譚 『ハマ野毛』アンソロジー目次01

ヨコハマB級譚 『ハマ野毛』アンソロジー目次02

 

2011年、横浜の『THE ART NEWS』(デラシネ通信社、発行人:大島幹雄)が、責任編集◎森直実で「伝説のタウン誌ハマ野毛復活の7号!」という特集を組んでいます。

『THE ART NEWS』第7号(2011年4月)

『THE ART NEWS』第7号表紙

購入したものは、伝説のタウン誌ハマ野毛復活の7号!の部分が大きな醤油じみになっていました。
「ぎょうざ一皿分」「やきとり一皿分」をうたった雑誌らしいと思ってしまいました。

 

『THE ART NEWS』第7号目次

 

この特集に、大久保文香さんは「平岡正明先生書斎御開帳」という文章を寄稿しています。

大久保文香「平岡正明先生書斎御開帳」

 

平岡正明の書斎写真の奥に写っている、レコード棚やスピーカーやアンプを見ていると、「第203回 1932年の池田圭『詩集技巧』(2017年4月27日)」で言及した「オーディオの師」池田圭について書いたように、秋朱之介について一文書き残しておいてほしかった、と思わずにはいられません。

平岡正明も『ハマ野毛』の編集について、《編集部はリズム・セクションであるというのは初めての体験だった。渡辺光次はハマを代表したタウン誌『浜ッ子』編集長だった男。大久保文香は雑誌編集ははじめてだったが、昭和初年の円本ブームにさからって美麗本を作りつづけた装釘師秋朱之介の娘だ。この二人と組んで俺はアート・ブレイキー型の編集者になると決めた。間断なくリズムを叩き出し、ソリストを鼓舞し、やれとおおせなら「ナイアガラ瀑布」と称されるドラムソロも叩いてみせよう》(『ヨコハマB級譚』まえがき)と書いています。

横浜の秋朱之介について、ナイアガラ瀑布のよう響き渡る文章を残しておいてほしかったものです。

 

〉〉〉今日の音楽〈〈〈

何人もの執筆者のサインが入った『ハマ野毛』創刊号をみていたら、中古盤屋で見つけた、Poi Dog Pondering『Pomegranate』(1995年、 Pomegranate Records)のプロモーション盤を思い出しました。

最初、ライブ音源の海賊版かと思ったのですが、1995年に開催する連続ライブのための、プロモーション用CDで、内容は当時リリースされたばかりスタジオ・アルバム『Pomegranate』でした。

 Frank Orrall
 Susan Voelz
 Dag Juhlin
 Leddie Garcia
 Robert Cornelius
 Dave Max Crawford
 Brent Olds
 Paul Mertens

と、メンバー8人のサインが書かれていました。

Poi Dog Pondering『Pomegranate』01

Poi Dog Pondering『Pomegranate』02

一時期 Columbiaというメジャーレーベルに所属していましたが、現在はPlatetectonic Recordsという自分たちのレーベルで作品を出し続けてています。

地に足の付いたダンスバンド、という言い方は変かも知れませんが、ハワイからテキサス、そしてシカゴに根づいて、長いキャリアをもつ、いいグループです。

     

もう一枚。

横浜には、二、三回しか泊まったことがなく、語るべきほどの知識もないのですが、横浜の書き手、ミュージシャンというと大谷能生の名前がうかびます。
大谷能生編集の横浜の雑誌があれば、読みごたえがあるものになると思います。

大谷能生の音楽作品のなかから、『マームとジプシーと大谷能生』(2014年、ewe records)を。

CD単体でなく、大谷能生「音楽・音響設計」のDVD「あ、ストレンジャー」が付属しているものをおすすめします。

「あ、ストレンジャー」は、カミュの小説『異邦人』が原案。
主人公の男性ムルソーは、女性のムーちゃんになっています。
大学の講義室のような室内と江ノ電と海岸で、4人の若い人たちの、いわゆる「自然な演技」でない、「音楽」のように反復する演技。
舞台でもなく、映画でもなく、そのはざまのような、高い緊迫度の42分。

語られることが少ない盤ですが、こうしたものはもっと多めに世に出回ってほしい。

この盤が必要な人たちが少なからず存在するはずで、その人たちが気づかずにやり過ごしてしまうのは、不条理です。

余計なお節介であっても、その人たちに届いてほしいと思わせる盤です。


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