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スワロウデイル

 編集工房SWALLOW-DALEのアーカイヴ準備室です。ときどき更新します。

平田信芳文庫

 平田信芳(1930年9月15日 - 2014年2月15日)の思い出に、
「平田信芳文庫」を開設しました。(2014年10月28日)

 

SWALLOW-DALE

 不定期刊小冊子『SWALLOW-DALE』をPDFで公開していく予定です。おもに鹿児島についてのテキストになります。忘れられている、忘れ去られている話題を取り上げていく予定です。時代遅れというか、時代とずれた話が続く予定です。

【2019年1月25日】『SWALLOW-DALE』別冊のPDFを公開しました。

 

my favorite things

 しばらく「20世紀書店」が続きます。ほかの世紀にもお邪魔します。

 

278. 1973年の天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(2019年7月24日)

1973年の天沢退二郎『光車よ、まわれ!』見返し

 

 《見返しに地図のある本 その4》

雨と高い湿度の日が続いていますが、鹿児島はどうやら梅雨明けのようです。
今年の梅雨のあいだ、鹿児島市の、わたしの住む辺りは、線状降雨帯が居続けるような、ひどい雨はありませんでしたが、それでも、気象条件次第では、1993年の8・6水害のときのような、一気に水があふれ出す、激しい「想定外」の雨も、これからは「想定外」ではなく普通のことになるのではないかと感じます。

今年の雨も激しく降り続けるときがありましたが、思い返してみても、1993年の8・6水害の時の雨の降りかたは尋常でなく、今まで記憶している中では、いちばんの激しい雨でした。
8・6水害の時は、外にいて、直接、雨の強さを感じていたので、余計、記憶に残っているのかもしれません。
その日、夕方6時ぐらいに、天文館で雨宿りして様子を見ていましたが、雨脚の強さは半端なく、空を見てもこの雨はやまない、びしょ濡れになっても早く帰ったほうがいいと判断して、雨の中を歩いて帰ることにしました。
国道10号線沿いに歩いていくと、稲荷川にかかる戸柱橋は、もう封鎖されて通行止めになっていました。
緊急の事態ということで、日豊本線にかかる鉄橋のほうを渡っている人たちがいたので、普段は通れない鉄橋を渡って、稲荷川を渡りましたが、すぐそのあとに、稲荷川が清水小学校や国道10号線に急激しい濁流になってあふれだし、危ないところでした。
わたしの家は、少し高台にあったので、その浸水は免れました。

写真は、詩人・天沢退二郎の最初の小説、1973年の『光車よ、まわれ!』(1973年4月27日初版第1刷発行、筑摩書房)の見返しです。物語の舞台の地図になっています。
1973年のちくま少年文学館版の装幀・さしえは司修です。

『光車よ、まわれ!』は、泣いて笑って何も残さずきれいさっぱりするタイプの作品ではなく、心に食い込んで、しみいっていくファンタジーです。人によっては、そうした心へのしみわたり方を、たちが悪いと嫌うかもしれません。

天沢退二郎のファンタジーは、世界が、黒いもの、黒い水に覆われようとするなか、「光車」など闇の勢力に対抗できるものを求めながら、何とかして抵抗しようとする少年少女の物語です。
今、読みかえしてみると、精緻な構築物というより、寄せ集めの材料で急あつらえの構造物という印象も受けます。そのあちらこちらにある齟齬も魅力になっています。
天沢退二郎のファンタジーに数多く現れる水にまつわる表現は、詩的というより、日常的な顔をしながら、どんどん作品世界に浸潤してきて、不気味さを生み出す力はなっていて、その力は今も失われていません。
子どもたちがあっけなく死んでしまったり、異なるものに変容したり、行方知れずになる世界は、今読むと、2011年の震災前にあらかじめ書かれていた、厄災を予言するファンタジーでもあった、という気がします。

天沢退二郎のファンタジーも、ランサム・サーガのように、見返しに地図がある本です。
天沢退二郎はランサム・サーガの読者でしたから、見返しに地図を配することで、その系譜に連なったことを宣言したようなものです。